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産休①
流石に8カ月にも入ると、お腹が重い。
仕事にも慣れてきた頃だが、産休に入ることになった。
傍目にも『太った』レベルでは済まされず、そろそろ外出も憚られるように思う。
人狼ならば『あら、おめでた!?予定日は?』なんて気軽に普通の会話として成立するが、人間ではあり得ないことが起きているんだから、その辺はバレないように上手く立ち回らないと…
買い物やシルバの送り迎えも黒曜さんに頼んで、行動範囲も狭くなるが、この人狼専用のマンションには、居住者限定のジムやプール、美容室に銀行…等々があるから。
何でも揃っていてありがたい。
「輝?外に出られなくて不自由じゃないか?」
天気の良いある日、黒曜さんがドライブに連れて行ってくれることになった。
久し振りの外出でうれしくて、お弁当も作った。
シルバも興奮してチビ狼になって走り回っている。
どこに行くのかは、着いてからのお楽しみで教えてもらえなかった。
ワクワクしながら、チビ狼から戻らないシルバを抱え、車に乗り込むと
「さあ、行こうか。」
と黒曜さんがアクセルを踏み込んだ。
街を抜け、人狼の村へ向かっているようだった。
「あれ?ここ…」
人型に戻り、着替えを済ませたシルバが呟いた。
「シルバ知ってるの?」
「うん!太陽君ちの山だよ!」
「へぇ…太陽君の…素敵な所だね。」
「『いつでもどうぞ』って、太陽君のお父さんが言ってくれたんだ。
もう少し登ったら…ふふっ。着いてからのお楽しみにしようか。」
車は山道を登っていく。
どんな所なんだろう、ワクワクする。
「シルバは行ったことあるの?」
「うん!太陽君のお父さんが連れてきてくれたんだ!
ママも気にいると思うよ!」
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