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産休②
到着するまで目を瞑るように言われ、素直に目を閉じた。
一体どんな所なんだろう。
シルバは『ママも気にいる』と言っていたな。
やがてゆっくりと停車した。
「さあ、着いたよ!輝、目を開けていいよ。」
深呼吸して目を開けると…
「うわぁーーーーーっ!」
一面に広がる花畑。色とりどりの花が咲き乱れている。
青空とのコントラストが凄い。
日本じゃないみたい。
まるであの有名な映画のワンシーンに潜り込んだみたいだった。
思わず『ドレミの歌』が口から溢れそうになった。
シルバは車から飛び降りると、ころころ転がりながらはしゃいでいる。
「ママぁーーー!黒曜ーーっ!」
黒曜さんに手を取られ、抱き下ろされた。
「凄い…綺麗…こんな所があるなんて…」
「だろ?さ、少し散歩しよう。転ばないようにね。」
俺の手を握り締め、うれしそうに歩き出した。
片手にはお弁当が入ったバスケットを持って。
「黒曜さん。」
「ん?どうした?」
「ありがとうございます。
とっても、とってもうれしいです!」
「そう、良かった。」
走り回るシルバの後を追うように歩いていく。
大きな木が茂り影になる場所まで行くと、シートを取り出してその上にクッションを敷いて座らせてくれた。
いつの間にかチビ狼になったシルバが走り回っている。
俺の横に腰を下ろした黒曜さんに促されて身体を預け、ぼんやりと目の前の風景を見つめていた。
爽やかな風が通り抜けていく。
仄かに甘い香りがするのは、何の花だろう。
黙り込んだ俺を心配したのか、黒曜さんが顔を覗き込んできた。
「輝?大丈夫?遠出し過ぎたかな…ごめん。」
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