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産休③
俺は黒曜さんにもたれ掛かったまま、首を横に振った。
「違うんです!
こんな幸せって…こんな満ち足りた思い…
黒曜さん、ありがとうございます。
俺を愛してくれて、シルバのママにしてくれて、新しい命まで授けてくれて…」
「輝…」
「俺、あなたに会えて本当に良かった…んっ」
顎を取られ、黒曜さんに口付けされた。
遠くでシルバが はしゃぐ声がする。
柔らかな風に吹かれ、木漏れ日が優しく光を落とす。
優しい、優しい口付けを拒むことができなかった。
溢れんばかりの愛おしさに、涙が一筋、頬を伝った。
その涙すら舐め取られ、耳元で『愛してる』と何度も何度もささやかれ、俺は声も出せずに黒曜さんに抱かれ、ただ、泣いていた。
ママぁーーー!こーくよぉーーっ!
シルバの声が近付いてくる。
その声に気付いて、そっと黒曜さんから少し離れた。
大きな手で零れ落ちた涙を拭いてもらった。
「…ママ?どうしたの?どこか痛いの?」
心配そうに覗き込む小さな瞳に
「違うよ。うれしくって、幸せで…
俺、大好きな人と結婚できて、シルバのママになれて、赤ちゃんももうすぐ生まれてくる…
本当に幸せ…って思ったら、泣けてきちゃったんだ。」
「ママ…」
小さな腕にそっと抱かれた。
「ママ、ありがとう…ママ、大好き!」
シルバを抱きしめると、また泣けてきた。
涙腺が緩くなって困る。
泣いてたら二人が心配するのに。
シルバが俺の頭を撫でてくれている。
ふわりと大きな腕で包まれた。
黒曜さん!
「どんなことがあっても、必ず俺が守るから。
心配しないで、俺の側にいてくれ。」
俺だって、この温もりを絶対に守るから!
そう決意して、二人の体温を感じていた。
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