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ニュース①
毎日何かと小さな事件(大袈裟だが大したことはない)のようなものは勃発するものの、大した火種にはならず、比較的のんびりと過ごしていた。
外出できないストレスは、黒曜さんが、天気と俺の体調のいい日に連れ出してくれるから、それ程でもない。
駐車場はマンションの地下にあるから、車の乗り降りも、外部の人間に見られることはほぼない。
それに、スモークのかかった後部座席に乗ってしまえば、妊夫姿も分からない。
流石、人狼専用のマンションだけある。
あと少し、あと少しと唱えながら、大きくなるお腹を抱え、時折痛む腰を摩り、身体の変化に戸惑いながらも、幸せを噛み締めている。
ぐにゃりぐにゃり とよく動くようになったお腹の子供は、チビ狼か、それとも人型で生まれてくるのか。
チビ狼なら、黒曜さんのような漆黒か、俺みたいな白か、おじいちゃんやシルバみたいに銀色か。
そっとお腹を撫でながら、そんな考えを巡らせていると、玄関を開ける音と同時に
「ママぁー!ただいまぁーーっ!」
シルバの元気な声が聞こえてきた。
よいしょと掛け声をかけて、シルバを迎えるために立ち上がった。
「お帰り、シルバ!黒曜さんお帰りなさい!」
「「ただいま!!」」
二つの塊に抱きとめられて、擽ったさとうれしさで一杯になる。
「凄いニュースがあるんだ。」
おやつに出したパンケーキを頬張りながら、黒曜さんが話し始めた。
「“凄いニュース”って何?黒曜、どうしたの?
何?何?どんないいこと?何?」
質問責めのシルバに、黒曜さんは、ふふん っと、得意気に鼻を鳴らした。
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