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不安②

どうやらマタニティ・ブルーと相まって、精神的に不安定になっているようだった。 黒曜さんは、シルバを膝に乗せ俺を足の間に抱え込んで、ひたすら頭や背中を撫でてくれた。 それに加えて、シルバの小さな手が 俺のお腹をそっと撫でてくれている。 ぐにゅぐにゅと、落ち着かない様子で動いていた赤ちゃんも、やがて大人しくなった。 「…赤ちゃん、眠ったね…」 シルバがお腹に「いい子」とささやきながら、キスをした。 その姿を見て愛おしくて、自分が歯痒くて、また涙が出てきた。 「輝…大丈夫だから。もう、泣くな。」 こくこくと頷くものの、この幸せに満ちた時間を奪われるかも と思うと、涙が止まらなかった。 と、黒曜さんの携帯が鳴った。 「黒曜!電話!僕、取ってくるね!」 しゅるりと抜け出したシルバが、携帯を持って飛んできた。 「サンキュー、銀波。 …もしもし?須崎です。 あっ!はいっ、ありがとうございます。 ……え?は? …あぁ…そうなんですか…いや、今日はちょっと… ええ…はい、うーーん…じゃあ仕方ないか… …じゃあ、明日、伺います。 はい、ありがとうございました。 …失礼します。」 シルバに携帯を渡すと、黒曜さんは俺を抱き直し、優しい声音で話し出した。 「輝…不審者の正体が分かったよ。 人狼の村の村長の息子。 高校生だそうだ。 何か…作家の俺に憧れてて、私生活や家族のことを知りたくて、張り込みしてたらしい。 未成年だし、身元がハッキリしてるから今夜は家に戻して、明日事情聴取する。 その時に一度顔を出して欲しいと中澤さんからの電話だったんだ。 もちろん、村長もすぐに謝罪をと言ってるんだが、輝の体調もあるし、今日は勘弁してもらった。 だから、もう…泣くな。」

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