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不安⑥
「輝…輝、愛してるよ…輝…」
黒曜さんの声は、不安で真っ黒になっていた俺の心に落とされた、透き通った水滴のようだった。
それは小さな波紋を起こし、段々と広がると同時に、その黒さを消し去っていく。
「…黒曜さん…」
俺はやっと、絞り出すように小さな声で、愛おしい夫 の名を呼んだ。
「輝…愛してるよ。」
「黒曜さん…愛してます。
俺は大丈夫だから…」
胸が詰まってそれしか言えなかった。
「輝…」
遠くで、黒曜さんを呼ぶ声がした。
多分、またインタビューなんだろう。
「相葉君に呼ばれちゃった。
気の毒なことに、彼はすっかり俺のマネージャーにされちゃってるんだ。
輝、なるべく早く帰るから。
花巻君達の申し出は、ありがたく受けよう。
身体、気を付けて。愛してるよ。」
『愛してるよ』
その言葉で電話が切れた。
俺は、黒曜さんの声が、温もりが、まだ残っているような気がして、携帯をぎゅっと抱きしめた。
慈しむような視線に気付き、目を開けると
森田…そうだ、森田、いたんだった…
自分の行動に思わず、ぼっと頬が熱くなった。
「ダンナさんの許可も出たことだし、決まりだね!
もうすぐ浩一がシルバちゃんと帰ってくるから、必要な荷物、纏めよう。
輝君、元々狼は群れで暮らすんだ。
助け合うのは当たり前なんだよ。」
森田の笑顔に、素直に頷いた。
また、ポロリと涙が落ちた。
そっとティッシュで拭ってくれた森田は
「目が腫れちゃうよ。
シルバちゃん、心配するから、泣き止もうね。
何か冷やす物取ってくるよ。
勝手に冷蔵庫開けちゃうよ、ごめんね。」
森田の心遣いに感謝した。
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