304 / 337
不安⑦
やがて花巻がシルバと一緒に帰ってきた。
シルバは「ママぁ、ただいまぁ!」と俺にいつものようにぎゅうっとハグした後、おやつも食べずに必要なものをカバンに詰め始めた。
あれ?
あぁ…きっと森田から花巻に、黒曜さんと俺の了解を得たことの連絡がいったのだ。
そして花巻から、『しばらく花巻の家で過ごす』ということを聞き、聡 いあの子は、黒曜さんが帰ってこないこと、俺の様子がおかしいことが合致し、『何かが起こっている』と瞬時に理解したのだろう。
「ママぁ!これ、持って行ってもいい?」
取り出したのはランドセル。
「まだ早いよ。置いてお」
言い掛けた俺の言葉を森田が遮った。
「いいよ!毎日側に置いときたいんだもんね。
それも持っておいで。」
「はーーい!」
その間にも、花巻と森田は俺達の荷物をどんどん運んでくれる。
すぐにプチ引越しが終わってしまった。
森田がお茶を入れてくれて、俺が作ったシフォンケーキで、引越し蕎麦ならぬ引越しケーキ。
「凄い。早っ。お前達その手際の良さ、何?」
「へへっ。二人だからできるんだ。
これが相方が違えば、全然だよ。ね、浩一?」
「うん。俺もそう。
…番って、こんなとこにも影響するんだよな。
ねぇ、『結婚』ってどんなもの?
二人を見てたら本当に“愛し合ってるな”っていうのが、しみじみ伝わってくるんだけど。
『同棲』と何が違うのかな…
俺達、ずっと一緒に暮らしてるから、その辺の区切りが実感わかないというのか…」
「うん。指輪だって交換したし、仕事もプライベートも常に一緒だから、何が変わるのかな…って。」
大人の話にそっとシルバを見遣ると、さっさと食器をキッチンに持って行って、俺達に当てられた部屋へ行ってしまった。
全く…どんだけ気を使うんだよ。
ともだちにシェアしよう!