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不安⑩

言い掛けて飲み込んだ言葉に、森田が側に来てそっと背中を摩ってくれた。 「余分な家事までさせちゃってゴメンね。 俺では手が回らないことがあるから、助かったよ。ありがとう。 でも、無理しちゃダメだよ。 …輝君、もう少しの辛抱だから。 マスコミ対応の部署が動いてて、対人間へのコントロールが効き始めてる。 SNSの効果もバッチリみたいだよ。 人狼があまりにも人間に注目されることを嫌って…ほら、何かの拍子でバレるとマズいから…コントロールする部署が秘密裏にあるんだよ。 誘拐事件の時みたいにね。 段々と須崎さんに対する興味は普通になっていくと思う。」 「俺こそありがとう。 二人のお陰でシルバも保育園に行けるし、俺も心強い。本当にありがとう。 だから、俺がここでできることをさせてほしいんだ。」 「分かった。その代わり無理は絶対にしないこと。」 「うん!ところでさ、ぜんざいを作ってるんだけど食べる?」 「「食べるっ!!!」」 チビ狼になっていたシルバが足元で(じゃ)れている。 ふわりと抱き上げた森田が 「早く戻らないと俺達が全部食べちゃうぞ!」 と揶揄うと、きゅうっ と一声鳴いたシルバは慌てて森田の腕から飛び降りて、一目散に部屋へ飛んで行った。 「いいなぁ、子供がいる空間…」 「輝君に赤ちゃん生まれたら抱っこさせてよね。」 「もちろん!すぐに君らにも…」 「あははっ!そうだね、そうなってほしい。 俺達も笑いが絶えない家庭にしたい。 …な、要。」 「…うん。」 ラブシーンが始まりそうな雰囲気に、そっと席を立ってキッチンへ向かった。 その甘い空気を 人型に戻り「ぜんざーーいっ!」と叫びながら突進してきたシルバに、見事に断ち切られたのだった。

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