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収束2①
映画は、既にクランクインしていた。
主演は、今若者に大人気のグループのイケメン三人組で、それに絡む相手はこれまた国民的人気の女優達。
ファンサービスも旺盛で、瞬く間に黒曜さんのファンは飛び付いた。
そちらの方が話題の主になっていき、黒曜さん自身のことは、次第に隅に追いやられるようになっていったのだ。
花巻が言っていた通り、黒曜さんに対する世間の注目は段々と落ち着いてきた。
人狼のネットワーク操作は俺の想像を遥かに超えていた。
人間は人狼には敵わない。
操られていることに気が付いていない。
黒曜さん自身も
『俺の大切な伴侶が出産を控えている。
俺と違って一般人だから追いかけ回したりしないでほしい。
聞きたいことがあれば、自分が何でも答えるからそっとしてほしい。
心配をかけないで新しい命を無事に迎え入れたいから、出来るだけ騒がないでほしい。』
と訴えてくれたお陰もある。
それでも、いつ会えるのか、いつ帰ってこれるのか。
会いたい気持ちが募っていく。
確かな約束のないまま、日が過ぎていった。
ピンポーン ピンポーン
「ん?こんな時間に誰だろう…
はーい!」
…インターホン越しに話していた森田が
「輝君!早く玄関に来て!」
「え?俺?」
何だろう…何か荷物頼んでたかな…
にこにこ笑う森田にそっと肩を押されて、ドアを開けた。
そこには…
「ただいま、輝!待たせてごめんな!」
恋い焦がれていた愛おしい伴侶が、照れくさそうに立っていた。
「黒曜さん…」
ふわりと大きな腕にすっぽりと包まれた。
すんすんと、大好きな懐かしい匂いを胸一杯に吸い込んだ。
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