315 / 337

新しい家族②

時折顔をしかめては腰を撫で摩る輝を見兼ねて、お風呂上がりにマッサージをしてやることになった。 「黒曜さんだって、一日中座りっぱなしで肩も腰も凝ってるでしょ? 俺もマッサージしたい。」 甘えるように上目遣いで言われると、もうデレデレが止まらなくなるが、一旦拒絶の言葉を吐くと、これ以上ないくらいに悲しい顔をするので、 「仕方ないなぁ…でも短時間で頼む。」 と妥協したフリをして、本心はうれしくて堪らない。 流石に臨月に入った妊夫に、欲を吐き出すことはできるはずもなく、一人でしたり、ハグしたりキスしたり、こうやって身体の一部に触れては、満足感を得ていた。 そんなある日、輝の顔色がいつもと違って見えた。 「輝?具合でも悪いのか?」 何故か荷物を纏めながら、不安気な顔で俺を見た輝は 「…何だか…お腹が痛くなってきたんだ… さっきから時間を測ってるんだけど、段々短くなってきてる。 黒曜さん、ひょっとしたら陣痛始まったかも。 念の為に、病院…行きたいんだけど…」 聞いた瞬間の、俺の動きは素早かった。 戸締りとガスや電気の切り忘れチェックを済ませ、携帯やら財布やら鷲掴みにして、輝が纏めた荷物を持ち、車のキーをポケットに突っ込むと、輝の手をしっかりと握りしめて、病院へ向かった。 途中 「…痛っ……ふうっ…ふうっ…」 時折お腹を押さえ、痛みを我慢する輝を横目で見ながら、とにかく安全運転で飛ばした。 サイレンの音が聞こえ、バックミラーに赤いパトランプが見えた。 え?俺? 速度…ヤバっ、20キロオーバー? 「黒のSUVの運転手さーん!左に寄ってねー! はい、減速ーーっ!!」 嘘だろ?

ともだちにシェアしよう!