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新しい家族②
時折顔をしかめては腰を撫で摩る輝を見兼ねて、お風呂上がりにマッサージをしてやることになった。
「黒曜さんだって、一日中座りっぱなしで肩も腰も凝ってるでしょ?
俺もマッサージしたい。」
甘えるように上目遣いで言われると、もうデレデレが止まらなくなるが、一旦拒絶の言葉を吐くと、これ以上ないくらいに悲しい顔をするので、
「仕方ないなぁ…でも短時間で頼む。」
と妥協したフリをして、本心はうれしくて堪らない。
流石に臨月に入った妊夫に、欲を吐き出すことはできるはずもなく、一人で処理したり、ハグしたりキスしたり、こうやって身体の一部に触れては、満足感を得ていた。
そんなある日、輝の顔色がいつもと違って見えた。
「輝?具合でも悪いのか?」
何故か荷物を纏めながら、不安気な顔で俺を見た輝は
「…何だか…お腹が痛くなってきたんだ…
さっきから時間を測ってるんだけど、段々短くなってきてる。
黒曜さん、ひょっとしたら陣痛始まったかも。
念の為に、病院…行きたいんだけど…」
聞いた瞬間の、俺の動きは素早かった。
戸締りとガスや電気の切り忘れチェックを済ませ、携帯やら財布やら鷲掴みにして、輝が纏めた荷物を持ち、車のキーをポケットに突っ込むと、輝の手をしっかりと握りしめて、病院へ向かった。
途中
「…痛っ……ふうっ…ふうっ…」
時折お腹を押さえ、痛みを我慢する輝を横目で見ながら、とにかく安全運転で飛ばした。
サイレンの音が聞こえ、バックミラーに赤いパトランプが見えた。
え?俺?
速度…ヤバっ、20キロオーバー?
「黒のSUVの運転手さーん!左に寄ってねー!
はい、減速ーーっ!!」
嘘だろ?
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