318 / 337

新しい家族⑤

予定日よりも、二日早かった。 入院に必要な着替え等の荷物は、輝がきちんと用意していたので、問題はない。 輝は 「今朝は食欲がなかったから、ほぼ絶食状態で良かったぁ…」 と、看護師さんと談笑している。 痛みと痛みの間で、まだほんの少し余裕がありそうだった。 その合間に急いでシャワーを浴びて、検査を済ませて、手術室へ運ばれていく。 「輝、行ってらっしゃい。」 「黒曜さん、行ってきます。」 おまじないだ、と おでこと鼻先にキスを落とすと 「もぉーっ、みんな見てるよ…」 むくれて頬っぺたが膨らんだ。 くくっ。今からママになろうとするのに…相変わらずかわいいな。 髪の毛を撫でて 「銀波と待ってるから。」 そう言って送り出した。 プシュ と音を立てて締められたドアに隔たれて、心許ない気分になったが、気を取り直して銀波の迎えに走り出す。 時間外に突然迎えにきた俺を見ても、銀波は「どうして?」と聞きもせず、サッサと帰り支度を始めた。 太陽君も何かを察したのか、銀波の手を取り、耳元で何かささやいた後、ハグしてすんなりサヨナラをしてくれていた。 先生達に見送られて、病院へとひた走りに戻る。 “手術中”の赤いランプは点いたままで… 銀波と長椅子に腰掛けた。 「ねぇ、黒曜…」 「ん?どうした?」 「弟かな、妹かな…」 「…うん、元気ならどっちでもいいよ。 銀波は?」 「僕も!どっちでも、僕はお兄ちゃんだもん! ねぇ、僕の時も、黒曜はこんなにドキドキワクワクしてたの?」 「そうだよ。“無事に産まれてきますように…』って、そればっかり祈ってた。 初めて抱いた時、本当にちっちゃくて、かわいくって、俺の手の平で、くぅくぅ泣いてたんだ。 『俺の甥っ子だ』って、うれしくってさ…」

ともだちにシェアしよう!