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新しい家族⑩
「側についてなくて大丈夫なのか?」
「付添いはいらないんですよ!
黒曜さん、お産は病気じゃないんです。
ここは病院ですから、何かあればすぐに処置してくれるし大丈夫。
シルバ、暫くご飯作れないけどごめんね。」
「ううん!黒曜がいるから大丈夫だよ!
ママが退院するまで毎日来るね!
ママ…銀河と一緒に早く帰ってきて…
僕、待ってるから。」
「うん。お利口さんで待っててね。」
「輝…」
離れがたい。離れたくない。
側に付いていてやりたい。
「黒曜さん…」
輝がそっと俺の頬に手を当ててきた。
「そんな顔しないで…ワガママ言いたくなるから…ね?」
“そんな顔”…顔に出ていたのか。
心身ともに衰弱している輝に、これ以上の負担は掛けられない。
その温かな手に俺の手を重ね、空いた手で輝の頬を唇を優しく撫でてやった。
「…分かった。明日また銀波と来るから。
今夜はゆっくりと休んで…
輝、ありがとう。愛してるよ。」
おでこに、瞼に、頬に、鼻に…最後に心を込めて唇に口付けを落とした。
「お休み、輝。」
「ママ、お休みなさい!まーた、あーした!」
「ふふっ。お休みなさい。
まーた、あーした!」
振り返り振り返り、病室を出た。
プシュー っと閉まるドアさえ憎らしく思える。
「銀波、もう一度銀河を見て帰ろうか。」
「うんっ!」
ガラスの向こうに、ずらりと並んだ赤ん坊が…七人。
半人半獣の子、完全な人型の子、狼の姿の子…一番右側に銀色の塊が丸まっていた。
「銀河いた!…“須崎Baby”って書いてあるよ!
ねぇ、“銀河”って直してもらおうよ。
僕、頼んでくる!」
俺の返事も聞かずに、意気揚々とナースステーションに乗り込んだ銀波は、看護師達と話をしていたが、やがて笑いに包まれた部屋を後にして戻ってきた。
「すぐ直してくれるって!」
目の前のチビ助は、逞しいお兄ちゃんの顔に変わっていた。
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