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第2話

当時、志乃と健司が庭先で遊んでいたボールが屋敷の塀を乗り越えて外へと転がり、それを追い掛けて志乃が外へ出たところで不審な車に乗る知らない男に声を掛けられたことを鮮明に覚えている。 「僕、僕のおとうさんが事故で病院に運ばれたそうだよ!今すぐ一緒に行こう」 慌てた様子で車の男はそう言った。 「おじさん誰?」 「おじさんはおとうさんの会社の人だよ。今後ろ開けてあげるからね」 「……」 怪しいけれど、本当だったらどうしよう。 幼いながらに父親が事故で病院に運ばれたと聞かされたことがショックで、今すぐ助けに行かなくちゃと気が焦っていたのだと思う。 どうしたらいいのか、ボールを持ったまま立ち尽くす俺を救ったのは健司だった。 「志乃様、ボールありましたか?」 健司が遅れて外へ出る。 「あ、うん。ねぇ健司、このおじさんが父様が事故にあったから一緒に病院に行こうって……」 俺がそこまで言いかけて、車の後方ドアを開けていた男が振り返った。 「君はお友達かな?この子のおとうさんが危ないんだ。今すぐ行かないといけないから、また今度遊んでね」 この時、大方見当違いな事を口走るこの男から守るように、健司が俺の前に立ちはだかり両手を広げて大きな声を上げた。 「御主人は御在宅です!!御用があるならお呼びしますが、どのような御用件でしょうか!!」 その時の健司の迫力に圧倒されたのか、それとも主人が家に居ると聞いて狼狽えたのか、男は「クソガキが!」と汚い言葉を投げ捨てて車で走り去って行った。 「志乃様、大丈夫ですか?」 「うん……健司ごめんね。あの人悪い大人だったんだよね」 両手を広げたまま健司の腕が小刻みに震えていた。 俺より先に危険に気付き、俺を守り、怖い思いをしたのだと思う。 「志乃様が無事でよかった。俺、もっと強くなりますから、ずっと一緒にいましょうね」 「うん」 それから健司との関係に俺の淡い恋心が芽生えるのはまた数年先の話だ。 ─終─

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