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第2章第75話
蒼空side
口を挟むのは違うと
思って、黙って訊いていた。
だけど────。
「とにかく私と来なさい!」
「嫌だ!僕はここにいる!」
泣きながら抵抗する朝陽。
俺は拳を握り
朝陽を掴もうとした
一条さんの間に割って入る。
「いい加減にしてもらえませんか?」
いつもより声のトーンは
低かったと思う。
朝陽は驚いた様子を見せたが
俺にしがみついた。
「何を言っているんだ君は?
きちんとした会社にお務めだと
思ったが、未成年に手を出した挙句
邪魔をするのか」
最初の印象はまるでない。
険しい顔つき。刺のある言葉。
でも────。
「口を挟むまいと黙っていました、
確かに俺達は祝福されるとは
思っていなかったし
反対されるのは予測していました」
「蒼空……」
俺は朝陽の頭を撫でながら
静かに続ける。
「ですが貴方はなんですか?
責務とか、ただ貴方は
自分の都合を押し付けているだけだ!」
「なんだと!」
「違いますか?なら
貴方は朝陽がどれだけ苦しんで
生きてきたか知っていますか?
話を訊いてあげましたか?」
「……………っ」
一条さんは苦虫を噛み潰した
ような表情で黙った。
「いきなり現れた人に
父親だと名乗られ
事情も何も訊かず
一方的に貴方は話しているだけだ!」
「…………っ」
ピリピリした空気感。
朝陽は黙って泣いていた。
「俺だって付き合いは浅い、
でも────事情は
朝陽から全て訊いて、俺は
あまりに辛くて泣くしかなかった」
一条さんは拳をギュッと握りしめた。
これ以上口にすれば殴られる。
分かっていても止めらない。
「朝陽左手出して」
朝陽はびっくりした顔。
「でも────」
「いいから出して!」
少し声を荒らげたか────。
朝陽は事情を呑み込み
袖を捲って手を出した。
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