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第2章第76話

俺はわざと朝陽に 残る手首の傷跡を 一条さんの目の前に出した。 「!」 「この傷の意味わかりますか? これは朝陽が自分で付けたものです」 「!!」 朝陽は顔を逸らした。 それでも分かって欲しいから。 「この年頃の子が 自ら自分を…………。 それがどんな事か分かりますか?」 「……………………」 少しだけ震える朝陽の 手を取り隠してやる。 朝陽はギュッと俺に抱きついて 涙を零した。 「貴方はただ朝陽を 泣かせているだけだ! 俺は朝陽が泣くのは我慢出来ない! 今までずっと苦しんできた、 そんな子にこれ以上 追い詰めるような真似は しないで下さい」 一条さんは黙って立ち上がる。 だが────、 「君の言う事は理解した、 確かに一方的だったかもしれん…… だが、これは親子の問題だ! 他人の君に言われる筋合いはない!」 分かってもらえない────。 愕然とする。 「それにこの問題と 君と朝陽の問題は違う! 社会人として未成年に手を出し 挙句男同士って……、 私には理解出来ない! 君は人としてどうなのかな? 偉そうに説教する立場にはないだろ?」 俺の中で何かが ブチっと音を立てた瞬間。 パチンと激しく音が響いた。 見れば、朝陽が泣きながら 一条さんを平手打ち。 「あさ、ひ────」 俺の声に朝陽は 息を切らしながら 大声を出した。 一条さんは呆気に取られている。 「僕に何を言っても構わない! でも蒼空を馬鹿にしたら許さない!」 いつも優しい顔している 朝陽は別人のように見える。 「人として欠けてるのは貴方だ! 少なくとも蒼空は僕に 居場所をくれた、愛情をくれた! 貴方なんが大嫌い!」 そう言ってスマホを投げつけた。 「こんな物いらない! 帰って!!出てって!!」 朝陽は一条さんを無理矢理 玄関に追い出し最後にこう言った。 「蒼空以外の大人は嫌い! 皆自分の事だけ! もう沢山!顔も見たくない!」 そう告げ玄関を閉めてしまった。 「あさ、ひ…………」 朝陽はこちらを向いて 腰から崩れ落ちる。 「朝陽っ!」 俺はギリギリに抱きとめた。 そして────、 「ごめんね……蒼空……、 本当にごめんね…………」 そう言って暫く 朝陽は泣き続けた。 ごめんねは俺なのに────。

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