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第2章第77話

朝陽を宥めるのにどれくらい 要しただろうか……。 無理もない────。 俺は朝陽が落ち着いたのを見計らい 投げたスマホを拾う。 一条さんは拾う間もなく 朝陽に追い出された。 でも────、 「朝陽…………これ」 投げたスマホを渡すけど 朝陽は顔を背け 「いらない!」 そう言って払い除けた。 「……………………」 俺は無言で拾い上げる。 それを見た朝陽は 涙を零して訴えた。 「蒼空は悔しくないの? 好きなように言われて! 僕は…………くや、しよ!」 解るよ……俺だって悔しい! だけど────。 俺は朝陽を思わず抱きしめた。 「嫌なら持たなくていい! 俺が預かる、朝陽には 俺が用意するから……泣かないで」 泣くなって言うのは 厳しいかもしれない。 だけど、もう泣いている 顔は見たくない! 寝室で寝ていた筈の心愛も 騒ぎに起き出して来て 足元に擦り寄る。 「ほら、心愛が心配しているよ」 優しく頭をポンポンすると 俺をゆっくり見つめたから 俺は精一杯の笑顔を見せた。 朝陽は真っ赤な目を擦り 俺から心愛に視線を移すと まるで大事なものを包み込むように 俺と心愛を抱きしめる。 その華奢な腕は微かに震えていた。 そこにこれ以上の 言葉は必要ない。痛い程伝わる。 深い傷にまた新たな傷を負った。 今は言葉を呑み込もう。 俺は黙って細い 身体を力強く抱きしめた。

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