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第2章第86話
朝陽の好物を詰め込んだ
お弁当を開けると
目の前の顔は大喜びしてくれた。
こうやってはしゃいでる
姿はやっぱりまだあどけない。
「いっぱい食べな」
俺が促すと、朝陽は
手を合わせていただきますと
一言口にすれば
小さな口をめいいっぱい
開けて鮭おにぎりを頬ばり
美味しいと笑顔を見せる。
ただそれだけなのに
俺の心が暖かくなって
食べるのも忘れ
暫し朝陽の顔を眺めた。
「食べらいの?」
もぐもぐしながら朝陽は
不思議そうにこちらを見た。
朝陽の一言に思わずハッとする。
「食べるよ」
照れ隠しに頭を
くしゃくしゃしつつ
こんな時間を増やしたい。
俺はそう願いながら
貴重な時間を胸にしっかり
刻み込んで弁当に手を伸ばした。
2人で味わう弁当は格別。
そんな風に思った時
「蒼空いつも有難う」
朝陽は口に運んだ
唐揚げを飲み込むと
俺に向かって礼をする。
そんなのいいのに。
「礼なんていらない、
朝陽が笑ってるなら
俺はそれで充分だから」
ふと見せた表情は
驚きと泣きそうな顔が
交ざっていたけど
最後はうんと言って笑う。
何気ないやりとりをしながら
綺麗にお弁当を食べ終わり
食後の休憩をしてから
俺達は閉園時間まで
園内を堪能した後、
心愛のお土産を買って帰宅した。
帰って来てからは
早々にお風呂を済ませると
朝陽は夕飯も食べずに
ソファで寝息を立てる。
「……また行こうな」
俺は軽くキスを落として
起こさぬようベッドへと運ぶ。
その重みは初めてこの部屋に
運んだあの日より
少しだけ重くなっている気がした。
僅かな感覚、それでも
俺の心はホッとした。
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