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第3章第91話
朝陽side
誰かの声がして気が付けば
辺りは真っ暗で物音一つしない静寂。
まるで闇の底のように
何もない空間に僕はポツリ。
「誰か────────」
思わず叫んだ自分の声さえも
闇に消えてしまう。
僕は怖くなって歩き出す。
けれどなにもない。
ゆっくりした足取りは
やがて小走りになり
気がつけば必死に走っていた。
「はぁ…………はぁ…………」
どのくらい走ったのかも
分からないまま僕の足は
とうとう止まりその場に崩れた。
汗も出るし呼吸も苦しいのに
空間だけが闇の中。
僕はどうしたの?
ここは何処?
光もない音もない────。
「誰かっ……!!」
僕の叫びが闇に消えた瞬間
遠くの方でピチャと何が
零れ落ちる音が聴こえた。
僕はハッとして
重い身体を起こして歩き出す。
音の方向に何がある。
きっと何か────。
気の遠くなるような距離を
走りクタクタ。
今にも崩れそうな身体を引きずり
目を凝らせば僅かな光が見え
そこから聴こえた小さな声。
「───ひ────朝陽」
知っている声…………、
懐かしいこの声は蒼空。
はっきり分かったのに
僅かな光が目の前で閉ざされていく。
「待って────帰らなきゃ」
何度も転びかけて必死に走る。
僕は最後の力を振り絞り
光が消える瞬間飛び込んだ。
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