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第3章第92話

蒼空side 朝陽───────。 俺は祈るように動かない手を 必死に握りしめていた。 俺の目から溢れる涙、 ピチャと一滴が朝陽の 手に落ちたその時、 握ってない右手が僅かに動く気配。 「あさ……ひ?朝陽────」 俺は必死に呼びかけると 一緒にいた要先輩が慌てながら 医者を呼びに病室を出る。 「朝陽っ朝陽────」 お願い目を開けてっ! ずっとずっとこの日を待っていた。 担当医が急いで駆け寄ると 俺を退かした。 俺は邪魔にならない場所で祈る。 「朝陽くん?わかるかな?」 触診しながら医者が呼びかけると、 開かなかった朝陽の瞼が僅かに開いた。 あの日────、 医者から言われた。 意識は戻らないかもしれない。 残酷な言葉だった。 それでも俺は願った。 朝陽は絶対帰ってくる。 だから俺は帰る場所を作って 待つと決めたんだ。

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