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第3章第97話
朝陽が声を出せるように
なったのは暫く経ってから。
最初の言葉は俺の名前だった。
「そ…………ら……」
声は出しにくそうで
掠れていた。
それでも久しぶりに聞いた
朝陽の声に
また泣いてしまいそうな
自分がいる。
いつからこんなに
涙脆くなったのか……。
「朝陽……無理に話さなくて
大丈夫だからね」
俺は伸びた髪を撫でる。
長い歳月が朝陽の金色の
髪を黒くした。
長い長い月日。
俺は朝陽に要さんを
紹介して何から話そうかと
頭を巡らせる。
そんな時────、
「……こは?」
声が掠れているせいか
聞き取れない。
俺はもう一度ゆっくり
話すように伝える。
「……こ……こね……こは?」
子猫……朝陽はそう言った。
目撃者の話に
子猫の存在は確かに出ていた。
「大丈夫……無事だよ」
自分がこんなに傷ついているのに
子猫の心配をする。
朝陽は何も変わってない。
優しい子────。
まだ後遺症の心配が
拭えていないが
とにかく俺は安堵した。
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