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第3章第109話
一条さんはお茶を一口飲んで
暫く何かを考え込む様子を見せた。
「あの子はどう?」
少しの間の後、一条さんは
静かに言葉にした。
「朝陽は日が暮れるまでリハビリを
頑張っています。見てるこっちが
心配になるくらい」
「そうか……」
「すみません……本来なら目が覚めた
時点で来てもらうべきなのに、
俺が話せないでいるから」
一条さんは首を横に振り
手元のお茶をテーブルに置いた。
「仕方ないよ……出会いが最悪だったしね。
あの時の私は上条君や
あの子には本当に酷い言葉を言った。
会わせて欲しいなんて虫のいいことなんか
言えた立場ではないよ」
一条さんの言葉に俺はなんて
応えればいいのか迷う。
「あの子が事故に遭った時、
上条君が連絡をくれて、こうして
今話が出来ているだけでも感謝している」
正直俺は迷った。でも
事情が事情なだけに連絡を取るべきだと
俺はなんとか一条さんへと連絡をした。
あの日、病室に現れた一条さんは
呆然。そして泣き崩れて
後悔を何度も口にした。俺は
その姿を見ている。でも、
それを朝陽は知らない。
最悪の出会いと別れ。
朝陽の中ではそれで終わっている。
話さなければならない。
そう思って今日まで来てしまった。
「あの子はこれからどうしたいとか
そう言う話はしているの?」
「それが何も話せていなくて……」
俺は申し訳なそうに頭を下げると
一条さんは首を横に振った。
「二年だしね……ゆっくりでいいと思う。
ただ、もし私に出来ることがあるならば
いつでも言って欲しい」
事故以来、初見のイメージはまるでない。
それどころか、この二年、一条さんは
本当に協力的で俺一人ではどうにもならなかった
事さえも一条さんの協力で叶えられることができた。
「朝陽には俺から話します。
もう少しだけ待ってもらえますか?」
「勿論だよ」
「有難うございます」
それから少し朝陽の近況を話したりして
一条さんは帰宅。俺はどうしても
朝陽の顔が見たくなり急いで病院へ向かった。
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