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第3章第108話
次の日、一条さんから
メールが来たのは昼前。
落ち着いて話がしたいと
言うので、カフェも考えたが
家に来てもらう事になった。
「そろそろ時間か」
時計を確認すると約束の
時間まで僅か。
「心愛、大人しくしててくれよ?」
俺がソファで丸まって寝る心愛の
頭を撫でるとチャイムが鳴った。
俺はインターホンで応答すると
玄関を開けた。
そこには相変わらず
頭の先からつま先まで
ビシッと決めた一条さんの姿。
「突然押し掛ける形に
なって悪かったね」
「いえ、どうぞ上がってください」
一条さんは頭を下げると、
靴を揃えてリビングへ。
朝陽の事故以来何度か
顔合わせているのだが
毎回緊張する。
俺は軽く深呼吸をして
リビングに足を向けた。
「上条君、話をする前に
手を合わせてもいいだろうか?」
「はい、どうぞ」
一条さんは俺が頷くと
仏壇の前に座り手を合わせた。
暫くしてリビングに戻り
お茶を差し出すと礼を言って
一条さんはソファに腰を下ろす。
「新しい家は慣れたかい?」
「え?……はい」
実は事故後、俺は新しい
家へと引っ越していた。
こうやって一条さんと
会う事も、引っ越した事も
まだ朝陽には話していない。
「私がこんな事を言うのもなんだが、
一人じゃこの家は寂しいんじゃないか?」
確かにこの家は一人で暮らすには
広すぎる。でも……、
「確かに今はそうかもしれません。
でも心愛もいてくれるし、
何よりここは
朝陽の帰る場所ですから」
俺が隣に丸まって寝ている
心愛を撫でながら答えると
一条さんは目を細めた。
第一印象最悪なあの頃が
懐かしい。もし朝陽が
今の関係を知ったら
どうするだろうか?
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