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第3章第110話

 病院に着いて病室に顔を出すと 珍しく朝陽がそこにいた。 「あれ?今日はリハビリしないの?」  朝陽はベッドを起こして窓の外を眺めている。 「もしかして体調良くない?」  俺は少し心配した様子で 朝陽の顔を覗き込めば、 その顔は優しく微笑んだ。 「ううん、たまには休もうかと思っただけ」  俺は内心ホッとして、 朝陽の傍らに腰を下ろした。 「今日は遅かったんだね」  休みの日はいつも朝から顔を出している俺。 一条さんと話をしていたと話さなきゃいけない。  俺は少し間をおいて話しだそうとした時だった。 コンコンとドアをノックする音。 俺は慌てて返事をして扉を開けると そこには主治医の先生が立っていた。 「ちょっと宜しいですか?」  俺はどうぞと中へ通すと 先生は朝陽に話しかけた。 「朝陽君気分はどう?ちょっと診せてね」  先生の言葉に朝陽は素直に従う。 一通り身体を診ると先生はこう告げた。 「リハビリ頑張っているようだね」 「はい……」 「顔色も身体の状態もいいし、 どうだろう一時帰宅してみるかい?」  先生の突然の提案に朝陽は少し驚いて 直ぐに満面の笑みを浮かべた。 「いいんですか?」 「勿論、一時帰宅だから二日程度だけど、 無理は駄目。まず身体を慣らして行こう」  朝陽は先生の言葉に心から喜んでいる。 先生もそんな朝陽に目を細めて病室を後にした。 「蒼空訊いた?僕帰っていいって」  俺はそうだなと返事をすると 目の前の顔から笑顔が消えていく。 「喜んでくれないの?」  俺は朝陽の言葉に黙った。 俺は何も話してない。何も……。 「蒼空は一番に喜んでくれるかと思った」  さっきまでの笑顔はどこにもなく 今にも泣きそうなその表情に俺は慌てた。 「違うんだ!嬉しいよ……」 「何が違うの?今の蒼空の顔凄く困ってる」  朝陽の鋭い言葉に何も応えられない自分。 そんな俺の曖昧な態度に朝陽は声を荒げ 言い訳すらできないまま病室から追い出された。  こんなはずじゃなかったのに。 廊下に出された俺は病室内から漏れる 啜り泣きに呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

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