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第3章第111話

朝陽side  暫く廊下に蒼空の気配を感じていたものの 僕は悔しくて布団を被った。 暫くして気配が消え、後を追いかける事も出来ず 日が暮れるまで泣き続けた。  夜になってようやく落ち着き、 僕は包まっていた布団から抜け出すと 重たい身体を起し、車椅子に乗って 部屋を出て向かった先は医局。  独特の空気の中、僕は先生を探した。 「朝陽君どうしたの?」  僕が車椅子でふらふらしていると 背後から先生の優しい声。 「先生を探していたんです」 「私を?」  目の前の顔は一瞬驚いた表情を 見せたけど直ぐに優しい顔に戻る。 僕が少し戸惑うような表情で黙ると 先生は穏やかな口調でこう言った。 「病室に戻ろうか……話は部屋で聞くよ」  僕が静かに頷くと先生は車椅子を 押して病室へと足を向けてくれる。 「話って?」  そう言いながら僕がベッドへ戻るのを 手伝ってくれた。 「……あの一時帰宅の事なんですけど」  いつも忙しくしている先生。 今まで腰を下ろす事なんてなかったのに 今は僕の話を聞こうと傍らに座る。 「……一時帰宅……なかった事にして下さい」  目の前の顔は驚いて少し困った顔。 「どうして?帰りたくないの?」  僕は暫く黙って首を横に振る。 帰りたい。でも……。 僕は正直に先生に打ち明けると 先生は何かを考えてゆっくり話し始めた。 「朝陽君、上条君が喜んでいないと 思うのは違うんじゃないかな」 「でもっ……」 「彼はこの二年、一日も欠かさず 朝陽君に会いに来ていたんだよ」  先生の言葉に僕は言葉が出ない。 「仕事だってある。体調が良くない日だって あったはずだよ……それでも彼は 君に会いに来て……君に寄り添い続けた」 「……」 「少なくとも私が見てきた彼は 全てを朝陽君の為に時間を費やしていたよ、 そんな彼が喜ばないはずない」  先生の言葉に僕は完全に言葉を失った。 なら何故、蒼空の表情は複雑に見えたのだろう? 何も言えない僕に先生はゆっくり口を開く。 「朝陽君が眠っている間の話を少ししようか」  先生はそう言って窓の外へ視線を向けた。

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