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第3章第112話
先生の視線は何処か遠い場所をみているようで
僕は黙って言葉を待つ。
「朝陽君が運ばれて来た時、本当に
危険な状態だったんだよ……」
「……」
「手術は上手くいってもどうなるか
分からなかった」
「……」
僕は言葉が見つからない。
そう言われても全然わからないし記憶もない。
「数日後なんとか落ち着いてくれたけど、
私は彼に意識は戻らない可能性が高いと伝えた」
「……」
「彼は全然納得してくれなくてね……、
泣きはらしてそれでも朝陽君を助けて欲しいって
泣き着かれたよ」
蒼空のそんな姿、想像も出来ない。
いつも落ち着いていて穏やかで優しい彼。
どうして僕から離れなかったのだろう……。
「あの……」
「どうして身内ではない彼がこの二年側にいたのか?」
僕の訊きたい事をそのまま言葉にする先生、
ちょっとドキッとする。
「彼は朝陽君から離れるなんて意識、
一瞬も持ち合させていなかったよ」
「……」
「普通の人なら目が覚めない可能性がある
赤の他人ならそのまま病院には来なくなる」
チクリと胸に刺さる言葉……。
でも先生言っている事は事実で間違いじゃない。
「でも彼は一週間も目を腫らしながら
朝には君に会いに来た。私は何故そこまで
するのか訊いた事がある」
「……」
「そしたら彼は真面目な顔で、
大切な子の側にいたい、助けたい……
そう思うのがおかしいですか?って」
胸が痛い……でも嬉しい。
「私に向けてそう言った彼の目に
迷いなんて微塵もなかったよ」
ならどうして……どうして
素直に喜んでくれなかったんだろう。
「朝陽君、二年って思っているより長いよ。
君が知っている頃と現在では違う。
彼とは話をした?この二年の事」
「……いえ、話してません」
「一時帰宅はね、医療的にも必要なんだ。
一度落ちた体力や筋力を戻すのは大変だし、
普通の生活に戻るって思っているより大変なんだよ?
今回は少しでも取り戻せるようにまずは慣れてもらう
必要があるんだ。上条君とは話した方がいい」
話……何をどう話せばいいんだろう。
迷う僕に先生は大丈夫そう言った。
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