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第3章第100話
朝陽side
あれから暫くして
体調のいい日に
蒼空から話があった。
「朝陽……あのね……」
その言葉の続きは
一瞬耳を塞ぎたくなる事実。
後遺症────。
今でも充分迷惑をかけているのに、
これから先ずっと……?
だけど僕はその言葉を飲み込んで
静かに頷いた。
だってこの二年、
蒼空はそれを知りながら
僕の側にいた。
どんな気持ちだったの?
僕から離れる選択肢は
無かった?
訊きたい事はやまほどあるのに
何一つ訊くことは出来ず
僕は精密検査を受ける。
後遺症が残る確率は高い。
でも100%ではない、
そう担当医から告げられた。
僕はまだ自力で起き上がる程
回復はしてなくて、
身体の負担を減らす為
検査は3日を要した。
「朝陽……疲れたろ?
結果はまだ先だから
ゆっくり休もう」
全ての検査を終えると
蒼空は変わらない微笑みで
僕を気遣った。
「……蒼空?」
あのね────、
そう言葉が続いてくれない。
「どうした?」
だから今は────、
「有難う……」
泣きそうな気持ちをぐっと
堪え、僕は笑ってみせた。
目の前の顔は、
一瞬目を見開くような
表情をしたけど、
何も訊かず穏やかに微笑む。
「いいんだよ、俺が望んで
やってることなんだから」
何気ない一言だったと思う。
けれどその言葉に
僕の中にあった重たい気持ちが
スッと流れた。
あーあそうか、
この人の為に生きるんだ。
蒼空が隣にいるのなら
この先なにが待ち受けていても
きっと乗り越えられる。
変わるんだ。
あの日止まったままの
時間を自分で進めるんだ。
「朝陽?」
僕は唯一自由になる手を
伸ばして、まだ上手く力が
入らないながら蒼空の顔を
引き寄せ、触れるだけのキスをした。
離れた顔はとてもビックリ
していたけど、彼は笑い
僅かに光る目頭。
僕は大好きって
小さな声で呟くと
蒼空は優しく抱きしめてくれる。
僕はもう独りじゃない。
もう充分幸せなんだ。
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