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第3章第115話

 朝陽side    翌朝、三連休初日に 僕は一時帰宅を許された。 昨日、蒼空が帰宅した後、 僕はまるで遠足前の子供のように ドキドキして眠れなかった。 「朝陽君、くれぐれも無理はしないでね」  病院の入り口、担当医に念を押される。 「はい」 「帰ろうか」  先生に挨拶をして僕は蒼空に助けて もらいながら車に乗り込む。 眠っていたとは言え、二年半ぶりの 外の風はとても穏やかだった。  蒼空が運転する車は病院を後にし 見知らぬ景色を走る。 「どこ行くの?」  記憶の中の蒼空の家とは 明らかに方向が違った。 「着けばわかる」  会話はそれだけ。 と言うのも僕は殆ど眠れなかった せいか、いつの間にか眠ってしまったのだ。  どれくらい走ったのかそれすらも 分からず僕は蒼空の声で目を開けた。 「朝陽、着いたよ」  起きた時には車は停車していて 周りを見渡すとそこは住宅街。 蒼空は僕を抱きかかえた。 「お帰り」  蒼空の言葉に僕は腕の中で キョトンとする。目の前には 二階建ての一軒家。当然僕は この家に来た事もないし記憶にもない。 「ここは?」  状況が呑み込めていない僕を 他所に蒼空は優しく微笑んでこう言った。 「表札見てごらん?」  表札?僕は言われて視線を移すと そこには蒼空の名前と僕の名前。 そして心愛の名前……。  僕が頭をフル回転にしても どういう事なのか理解できず 暫しの沈黙の後、蒼空が口を開いた。 「俺達の家だよ……心愛も待ってる」  僕は呆然としたまま蒼空に抱かれ 家の中へ入ると、にゃーと猫の鳴き声。 蒼空はそのままリビングに行き僕を ソファに座らせた。  綺麗に片付いた部屋。真新しい 家具と部屋の匂い。蒼空の足元でスリスリ する猫。蒼空の言葉の意味。   「朝陽お帰り、ずっと待ってたよ」  蒼空の言葉でここが自分の帰る場所だと ようやく理解して涙が溢れた。

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