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第3章116話
涙が溢れて言葉にならない僕を
蒼空はギュッと抱きしめてくれる。
その傍らでにゃーと鳴いてソファに
飛び乗りクンクンと僕の匂いを嗅ぐのは
大きくなった心愛。
ずっと留守で髪も伸びた。
覚えているのだろうか?そう思った矢先
心愛は僕に擦り寄って来た。
「……心愛」
涙声で名前を呼ぶと喉を鳴らして
僕の膝の上に飛び乗る。
「ちゃんと覚えているんだよな」
蒼空はそう言って心愛を撫で
僕に優しく微笑んだ。
「この家……」
僕は涙を拭いようやく切り出す。
「俺と朝陽と心愛の家だよ。
一緒に暮らすために建てた」
建てたったって……。
沢山訊きたい事があるのに
また涙が溢れる。
「朝陽こっち」
蒼空はそう言うと心愛をソファに
移動させ僕を抱きかかえると、
隣の和室に移動した。
広さは六畳程だろうか?
そこには仏壇があり僕はその前で
下ろされた。
「……これ」
仏壇に飾られた遺影と位牌
僕の父の物と別に二人の遺影と位牌。
「俺の両親……」
「……」
突然の事に言葉が出ない。
だって前のアパートにはそんなもの
どこにも無かったし、蒼空のご両親の
話も訊いた事がない。
「俺が高校卒業前に事故で亡くなったんだ」
「……」
蒼空はゆっくりと確かな口調で話す。
「ずっと仏壇買わなきゃなって思って
今になったよ……」
「前のアパートには何も……」
蒼空は静かに頷き
そして線香一つ取り手を合わせた。
「ずっとさお寺に預けていたんだ。
一人前になったら迎えに行くつもりで」
「……」
なんて言ったら正解なのかわからない。
僕は自分の事ばかりで蒼空が抱えてきたもの
は何も知らない。それでも蒼空は僕の顔を
覗き込んで頭をくしゃりと撫でた。
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