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第3章第118話
蒼空は僕を宥めるように頭を撫でながら語る。
「一条さん俺に土下座したんだ。すまなかったって何度も」
僕は言葉を失う。あのプライドの高そうな人が土下座? そんなの想像も出来ない。
「何度も謝るからもう止めて欲し言っても止めなくてね。最初は俺も受け入れがたかったけど、
本当に後悔を口にしていたんだ」
「……」
「その日から毎日病院へ足を運んでね、その度に俺に謝るんだ」
蒼空は何を思い出すように窓の外に視線を向けていた。
「だからちゃんと話そうと思った」
「……」
僕が蒼空の立場なら同じ事が出来たろうか? 僕には自信がない。あの人と向き合う自信が。
「朝陽が直ぐに納得できないのも分かっているよ。でも俺は見ていたから。沢山話もした」
僕が眠っている間、蒼空は逃げるわけでもなく僕を待っていてくれた。あの人とも向き合っていてくれた。そう思うと胸が苦しくなる。
「……どうして僕から離れようとしなかったの?」
蒼空はビックリしたように僕を見つめた。でもそれは一瞬で直ぐに優しい表情に変わり僕をギュッと抱きしめた。
「一条さんにも言われたよ、でも俺には朝陽から離れる選択肢なんてなかった。微塵もね。苦しくないって言ったら嘘になるけど、離れるつもりはなかったよ」
「……蒼空」
蒼空はそっと目を閉じて僕を強く抱きしめた。とても暖かくて落ち着く場所。
「一条さんと話した時、あの人は自分の出来ることは何でも協力すると言ってくれた」
「えっ?」
「俺だって最初はまさかとは思ったよ。でもその言葉は嘘偽りなかった」
何度思い返しても僕の中ではあの日のままで。どうしても信じられない。けれど蒼空がそう言うなら
間違いはないのだろう。でも……。
「朝陽」
僕はふと名前を呼ばれ蒼空の顔を見上げた。
「いつか言っていたろう?時期が来たら養子縁組したいって」
そう言えばそんな記憶がある。でもそれは実現難しいって……。
「俺は落ち着いた頃、一条さんに話をしたんだ。それが朝陽の望んでいた事だから」
「えっ?」
「最初はあの人も驚いていたよ。でも、一条さんは協力すると言ってくれた」
「……」
嘘……。だってあの人は……。
「朝陽はまだ未成年だからね。保護者の同意がなければ勝手に養子縁組は出来ない。だから協力してくれると分かった時本当に嬉しかった」
「でもっ……」
「表札見たろう?俺の名前の下に朝陽って。苗字あったか?」
……なかった。僕の苗字は確かになかった。
「朝陽はもう氷浦じゃないんだよ……上条なんだ」
暫く頭が働かなかった。でもそれが事実だと認識すると僕の目からは涙が溢れた。
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