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第3章第119話

 涙が溢れ言葉にならに僕を蒼空は黙って抱きしめる。暫くの沈黙の後、蒼空はこう続けた。 「俺達はもう家族なんだよ。誰が何と言おうと」  家族……僕と蒼空が家族。そんな夢のような話が現実だと言うの? 僕は都合のいい夢を見ているんじゃないか。そう思って涙が伝う頬を抓ってみる。 「痛い……」 「朝陽、夢じゃないんだよ」  蒼空の優しい声。僕が蒼空の顔を見上げると穏やかな表情がこちらを向いている。 「本当に本当?」  僕の問いに蒼空は勿論と頷いた。 「じゃあこの家も……一条さん……が?」 「それは違う。この家は一条さんが建ててくれたものじゃないよ」  僕は蒼空の腕の中不思議そうな顔をすると蒼空は苦笑いを浮かべた。 「この家は俺が貯めた貯金と、親が残してくれた遺産を使わせてもらった」  遺産? そんな大事なお金……。 「いいんだよ、俺がそうしたかった。墓前でも伝えたし、きっと俺の親も喜んでくれている」  僕が眠っている間、僕は蒼空の家族になって蒼空と一緒に住む家まで完成していて。僕にとっての二年はあっという間だけど、蒼空にしてみればきっと長かったろうに。 「蒼空……有難う」  今はそれしか言えない。涙が溢れて言葉がそれ以上見つからないんだ。 「朝陽」  名を呼ばれて顔を見るけど視界がぼやけて良く見えない。涙を拭いかけた瞬間柔らかな感触が唇に下りてくる。僕は一瞬目を見開いたけど直ぐに瞳を閉じた。 「んっ」  久しぶりのキスは優しくて触れるだけ。でも徐々にそれは深まっていきあっという間に口内へと蒼空を受け入れた。 「んっ……んっん」  角度を変え反射的に逃げる僕の舌を追いかけ絡め取る。絡みついた舌は何度も吸い上げられ、口内を弄られ僕は息も絶え絶え。 「はぁん……ぁん」  重なったままソファに押し倒されると更に口付けは深まった。久しぶりの出来事に僕の身体は甘い疼きを感じる。ようやく離された口付けは互いに銀色の糸を引き乱れる呼吸。涙はいつの間にか止まっていた。 「朝陽」  名を呼ばれて首筋に吸い付かれる。 「待って……」 「どうして? 嫌?」 「ここじゃヤダ……心愛も見てる」  僕がそう言うと蒼空は心愛に目をやる。すると心愛はにゃーと鳴いた。 「ここじゃなければいい?」  蒼空の真剣な眼差しに僕は顔を真っ赤にしながら頷いた。蒼空はクスっと笑うと僕を軽々と抱き上げ、リビングから階段を上って角部屋に連れて入るとベッドへと寝かされた。

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