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第3章第132話

 病院の昼食が出てきて僕は久しぶりの病院食を口にした。最近の病院食は美味しい。蒼空は傍らで僕を眺めている。 「一条さんの事だけど」  僕は手を止め話し出す。蒼空は少し驚いた様子でこちらを見ていた。 「もう少しだけ待ってもらえる?」 「焦らなくていいよ、ゆっくりで大丈夫だ」  僕はうんと頷いて止めていた手を動かす。食事を済ませると、蒼空が食器を廊下へと運んでくれる。戻って来た蒼空はニコッと微笑んで僕の髪を撫でる。 「もう少しリハビリ頑張ったらちゃんと話すから」 「わかっている。一条さんには俺から話しておくから」 「有難う」  僕はベッドを倒して横になる。長かった髪も短くなりスッキリした首元。看護師さんたちからもこの髪型は好評で僕は嬉しかった。 「今日はゆっくりするといい」  蒼空はそう言って僕の頬にキスをした。本来なら今日からリハビリを頑張って行くべきなんだろうけど、今日は大人しく蒼空の言う通りにしようと決めた。 「いい天気だし屋上行きたいな」  僕は外の空気が吸いたくなって蒼空を屋上へ誘う。蒼空はいいよと言って車椅子を用意してくれた。僕は起き上がり車椅子に乗ると、蒼空と共に屋上へと上がる。  今日の天気は快晴。屋上は少し風が強いけど心地い。 「気持ちいいね」 「そうだな」  僕はフェンス越しまで連れてってもらうと病院からの眺めを一望した。 「蒼空明日から仕事でしょ? 無理しないでね」 「無理はしないよ、ちゃんと病院にも来るからな」  仕事本当は大変なんじゃないかなって思っている。なのに毎日欠かさずお見舞いにも来てくれて貴重な休みも僕の面倒を見てくれて、蒼空には感謝しかない。  ずっと二年間そうして来たんだろうか……。家族になった事も驚いたけど、本当に嬉しかった。帰る場所を作って待っていてくれた事も言葉にならないくらい嬉しかった。  僕に出来る事って何だろう? 今は一日でも早く退院する事。蒼空の負担を少しでも減らす事。僕は僕の足で未来を歩く事。その為に今はリハビリに集中しなきゃ。  一条さんとはそれから話をすればいい。怖くないと言ったら嘘になる。でも蒼空が向き合っているなら僕も向き合わないと行けない。 「朝陽何考えている?」 「これからの事をちょっとね」 「いつか話してくれるか?」 「勿論」  僕は空を仰いで応えた。今日の空は青が深く雲一つない。今の僕の気持ちと同じ晴れやかな空。僕は蒼空の手を取ると強く握った。 「朝陽?」 「こうしたいだけ」  僕の手足の痺れは完全には無くならいかもしれない。でも僕はほぼ百パーセントで完治させるつもり。僕がやりたい事の為に、完治を目指す。可能性はゼロじゃない。ならその僅かな可能性に賭けてみる。 「蒼空、僕絶対治すからね」 「朝陽……」  不思議と不安はなかった。僕が見ている夢は大きいのかもしれないけど、出来ない事じゃない。僕さえ努力すればきっと叶う。この空のように未来はまだ広がっている。

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