134 / 140

第3章第133話

 次の日からまたリハビリが始まった。少し休んだだけで筋力は簡単に落ちてしまう。手すりに捕まり立つのがやっと。この前は蒼空のところまで歩けたのに。  僕は必死に一歩一歩前に進む。その度に噴き出る汗。歩く事がこんなに困難なんて。おまけに手足の痺れが邪魔で上手く力が入らない。それでも頑張ると決めた。  僕は何時間も掛けて往復する。蒼空は仕事。僕は僕のやるべき事をやらなきゃ。 「朝陽君少し休もうか」 「もう少しやらせてください」  僕はそう言って一歩一歩前に進み、身体を反転させまた一歩とリハビリを続けていく。リハビリを担当してくれる先生も僕の姿に黙ったまま見つめている。早く歩けるようになりたい。僕はその一心で続けた。 「どうですか朝陽君は」 「先生見ての通りです。休もうと言ってもこの調子で」  視界に担当医の先生が入るが僕は気にせずリハビリを続ける。何か話している様子だけど僕は気にせず歩き続けた。 「頑張っているんだね」  自分の足だけで立てるようになりたい。自分の足で前へ進むようになりたい。じゃなきゃやりたい事も何一つ叶わない。 「朝陽君、先は長い少し休もう」  担当医の先生に手を掴まれ止められた。僕は肩で呼吸し汗はダラダラ。 「根を詰め過ぎてもいけないよ」  僕はそう言われてようやく休憩を取る。先生に助けられながら僕は車椅子に座った。 「頑張りたいのは分かるけど、無理をして身体に負担をかけては駄目だ」  僕は頷く。確かに負荷がかかり過ぎているのは確か。僕は先生の言う通りにする。 「水分もちゃんと摂取しないと駄目だよ」  僕はリハビリ担当の先生から水分を受け取ると一気に飲み干す。喉はカラカラだった。汗だくの顔はタオルで拭き取る。それでも流れ出る汗は止まらない。 「髪切ったんだね。誰に切ってもらったの?」 「蒼空」 「上条君は何でも出来るんだね」  先生とこんな話をするのはなんだか照れる。でも先生は知っていた。僕が蒼空の家族だって事。わかっていて僕には内緒にしていた。なんだか恥ずかしい。 「夕方には来ると思うからもう少し休んだらまた頑張るといい」  僕は先生の言葉に頷く。蒼空が来たら少しでも歩く姿を見せたい。その為には頑張らなきゃ。でも先生の言う通りちゃんと休む事も大事だと分かった。 「お風呂も入れるように手配しておくから頑張って」  僕は飲みかけのスポーツドリンクを飲み終え気合いを入れた。 「もう少し頑張ります」  そう言って僕は車椅子で手すり付近まで行くと、その場で立ち上がる。フラフラする中僕は手すりに捕まりながらまた一歩と前に進む。 「朝陽君頑張り屋ですね」 「本当に」  僕は先生達の会話を訊きながら前進する事だけを考えた。本当は苦しい。でも辞めるのは簡単。僕にその選択肢はない。前だけを向くと決めた。誰の為でもない。自分の為に。  そこから一時間必死にリハビリして休憩。その繰り返しで気が付けば日が傾き始めている。もうすぐ蒼空が来る。僕は最後の最後まで必死に歩いた。

ともだちにシェアしよう!