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第3章第135話話
それから一カ月が過ぎ、朝陽の努力は実を結び始めていた。あれだけ苦労して歩いていたのに今ではゆっくりだけど思い通りに歩けるまでに回復している。手足の痺れも殆どなくなり医師からは奇跡だと言われるほど。
「今日は天気がいいから外に出てみる?」
週末の午前中、外は雲一つない青空。心地いい風が病室のカーテンを揺らす。
「そうだね、出てみようかな」
朝陽は柔らかな表情でベッドから上体を起こした。
「車椅子持って来るな」
俺がそう言って病室を出ようとすると朝陽が俺を呼び止めた。
「車椅子は必要ないよ。歩いてみたいから」
朝陽はそう言ってニッコリ微笑む。
「なら歩行器借りてくるよ」
俺はそう言って歩行器を借りて病室に戻ると朝陽は有難うと言って微笑んだ。
「立てる?」
「大丈夫」
俺の心配をよそに朝陽はスッと立ち上がると歩行器に捕まり一歩また一歩と歩き始めた。俺は朝陽にペースを合わせゆっくりと歩いた。エレベータに乗り一階まで下り、外へ出ると心地いい風が頬を撫でる。病院の敷地は広く木々や花々が広がっていた。朝陽は足を止めるとゆっくり深呼吸。
「気持ちいいね」
「あそこのベンチで少し休もうか」
朝陽に提案するとこくりと頷いてまた歩き出す。ゆっくりゆっくりと歩いてベンチに腰掛けると朝陽は天を仰いだ。
「いい天気」
俺は朝陽の傍らに腰掛けると同じように空を見上げた。青々とした空が広がる。ふわっと優しい風が吹き木々を揺らした。何でもない時間。それでも俺達には大事な時間だった。
「風が気持ちいいな、たまには外もいいだろう?」
朝陽は静かに頷き俺の手を握った。俺は辺りを見回しながらそっと朝陽の手を握り返す。
「蒼空」
「ん?」
「僕ね……」
朝陽はそう言いかけて口を閉じる。俺は朝陽の顔を覗き込んでこう言った。
「何?」
「ううん、何でもない」
何かを言いかけて朝陽は首を振った。何を言いたかったのだろうか?俺はその後に続く言葉を気にしながらも結局訊かぬまま静かに時が流れる。どれくらいの時間を過ごしたのか、お互い手を握りしめたまま言葉を交わすことなく時間は過ぎていった。
「病室に戻ろうか」
口火を切ったのは朝陽。俺は返事をしてゆっくりと病室へ戻る。朝陽は少し疲れた様子でベッドに横たわると窓の外へ視線を移しこう言った。
「蒼空、僕一条さんに会おうと思う」
「え?」
突然の言葉に俺は言葉を探した。朝陽から会いたいなんて予想もしてない。
「……大丈夫なのか?」
俺は少し心配そうに訊いてみると朝陽は静かに頷いた。外を見ていた視線は真っすぐ俺を見つめる。迷いなど微塵も感じさせない
「分かった連絡してみるよ」
俺は静かに返事をすると朝陽は首を縦に振った。
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