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第3章第136話
朝陽side
面会時間が終わり病室にポツンと一人。ベッドの中で今後の事を考える。僕が思い描いている未来は本当に果たせるだろうか。蒼空にもまだ話していない未来。
「静かだな」
消灯時間が過ぎ病室は暗く物音一つない静けさ。いつもなら眠っている時間。だけど、一条さんと会うと蒼空に伝えたその時から、どんな顔をして会うのか。何をどう伝えるべきか。頭の中でグルグルと考えてしまう。
「はぁ……」
何度も寝返りうっては溜息。仰向けになって天井を見上げる。
「……父親か」
僕の中ではまだ消化しきれていない問題。ある日突然現れて真実を伝えられ、蒼空との関係を猛反対されたあの日の記憶はまだ昨日の事のよう。蒼空の話を訊いても僕の時間はあの時のままで止まっている。でも……。前に進むには話し合わないといけない。
「……」
僕の知らない空白の二年間。僕の環境は大きく変わっていた。それもこれも一条さんの協力があっての事。そう訊いても、会う事に躊躇いがないとは言えない。時刻はもう夜の十一時。時計に視線を向けた瞬間、看護師が僕の病室に入って来た。
「朝陽君、まだ眠れないの?」
「はい……」
看護師は心配そうに声をかける。
「先生に言ってお薬出してもらう?」
「大丈夫です。もう寝ます」
僕がそう応えると看護師は頷いてカーテンを閉めた。考えても仕方ない。僕は看護師が病室を出て直ぐ目を閉じた。
翌日目が覚めたのは六時。看護師がカーテンを開け体温測定。いつもの朝。僕は病院食を食べた後、ベッドの上で一息吐く。今日は平日、蒼空が来るのは仕事が終わってから。一時間程ベッドで休むと、僕はリハビリへと向かった。
いつものようにリハビリに取り組み、お昼に一度昼食を食べる為病室に戻る。一時間してまたリハビリへと向かう。僕の日課。そのおかげであれだけ苦労した歩行も今はなんとか自力で歩けるまで回復している。今以上に努力して歩行器なしでも歩けるようになりたい。そうすれば退院の許可も下りる。早く蒼空と一緒に暮らすために僕は必死だった。
「だいぶ歩けるようになったね」
「はい」
僕はスポーツドリンクで喉を潤しながら返事をする。
「このペースならもう直ぐ退院出来るね」
僕は笑顔で頷きもう少し頑張ろうとその場で立ち上がりゆっくりと歩く。何も使わず歩くのはまだ大変。それでも手すりや歩行器に頼らず歩く練習をしないといつまで経っても歩けない。
「早く退院したいから頑張ります」
僕は蒼空が来るまでの時間をリハビリに費やし、日が暮れる頃僕は早めに切り上げ病室に戻った。蒼空は一条さんと連絡を取ったのだろうか?そう思った瞬間スマホが鳴る。僕はメッセージを開くと蒼空からだった。
「ごめん残業で今日は行けそうもない」
絵文字と共に送られて来たメッセージに僕は少し寂しさを覚えた。今日は来られないのか。僕はシュンとしながらメッセージを打ち込む。
「分かった。無理しないでね」
僕はそれだけ打つと布団に包まる。蒼空の顔が見られないのは寂しい。もう直ぐ夕飯の時間か……。それまで少し休もうと目を閉じる。結局僕はそのまま眠りに落ちて、夕食の時間に看護師さんに起こされた。
運ばれて来た食事に僕はまだ眠そうな目でベッドから上体を起こす。いつもなら蒼空が傍らにいるのに。仕事だから仕方ないけど……。声だけでも聴きたいな。僕は食事の前にもう一度メッセージを送る。
「仕事終わったら電話して」
それだけ送ると僕は蒼空の返事を待った。
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