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第3章第137話
蒼空side
今日は真っ直ぐに病院へ向かうはずが残業になってしまった。朝陽の顔が見れないのは寂しい。また無理をしていないといいのだけど。俺は朝陽にメッセージを送ると明日朝一で必要な書類作りをする。仕事中に来たメッセージを見返すと電話して欲しいとの内容。今日は何時に終わるか。今夕方の六時。どんなに頑張っても九時までは掛かりそうだ。
「とにかく早く終わらさねば」
俺は独り言を呟いて、朝陽に分かったと返事をすると、パソコンに向き合う。オフィスはシーンと静まり返っている。殆どの社員は定時で上がっている。残っているのは数名。僅かにタイピングの音が耳をつく。俺は一秒でも早く終わらせる為、作業に集中。
「えーっと資料どこだったかな」
ディスクの上に大量に積まれた中から必要な資料を探す。やっとお目当ての資料が見つかると俺は作業を再開する。資料探すだけで時間を費やした。明日はプレゼン。この企画が通るか俺にとっては勝負の仕事だ。結局プレゼンの資料を作り終えたのは九時半を回った頃。急いで朝陽に電話をするが何度鳴らしても出ない。疲れて寝てしまったのだろう。そう思って俺はようやく家路に着いた。
帰宅したのは十時を過ぎる頃。玄関には心愛がお出迎え。
「心愛、遅くなってごめんな。お腹空いたろう?今ご飯用意するからな」
俺は着替える間もなく心愛に餌を与えると、よほどお腹を空かせていたのか勢い良く食べ始めた。暫く見つめた後、俺は自分の部屋へ行き、スーツを脱いだ。部屋着に着替えてリビングに戻ると、今から自炊する気にもなれず、帰宅途中に寄ったコンビニ弁当を温めて食べ始めた。スマホを見ても朝陽からの連絡はない。やっぱり寝てしまったのだと、ごめんと一言メッセージを送る。夕食を簡単に済ませて時刻はもう直ぐ十一時。お風呂を沸かして布団に入れたのは十二時を回った頃。明日は早く終わると良いのだけれど。
次の日、目を覚ましたのが六時。スーツに着替え軽い朝食を作って席に着いた瞬間、スマホが鳴った。
「もしもし」
「蒼空?ごめんね。昨日寝ちゃったの。今大丈夫?」
電話は朝陽から。俺は朝食を取りながら朝陽の電話に応える。
「大丈夫だよ、昨日はごめんな? 連絡遅くなって」
「大丈夫、蒼空お仕事大変なの? 身体壊さないでね」
俺は今日のプレゼンの説明すると、朝陽は頑張ってと一言。
「今日は出来るだけ行くから」
そう伝えると朝陽は無理しないでいいからねと言った後、電話の向こうで女性の声が聞こえた。恐らく看護師だろう。
「有難う。朝陽も無理するなよ」
俺がそう言うと朝陽はうんと頷いてまたねと言って電話は切れた。俺は残りの朝食を頬張って、心愛に餌を与え出勤の準備をし家を出たのが七時前。一条さんにも連絡を取らなければいけないのに中々連絡が取れない。会社に着いたのは七時半過ぎ。まだ誰も出勤していない。俺はプレゼン用の資料を何度も読み返し、シミレーションする。
「よ、おはよ。早いな」
背後から声を掛けられて振り向くと要さんが立っていた。
「今日は大事なプレゼンなので」
「そうだったな、どうだ? 手応えはあるか?」
手応えか。無い訳ではないけど他のプレゼンも気になる。俺は資料を渡すと要さんは鞄を置いて真剣に資料を読んでいく。暫く沈黙が続き、続々と社員が出勤してくる中、挨拶が飛び交う。俺も挨拶をして要さんに視線を向けると読み終わったのか俺に資料を渡す。
「どうですか?」
「良く出来ていると思う。内容も適格だし悪くない」
要さんは静かに微笑んで俺の肩をポンと軽く叩いた。
「頑張れ、後はどう上手く伝えるかだ」
「はい、頑張ります」
「おう」
そう言って要さんは自分の席に着く。俺は資料を纏めると、プレゼンまでの時間片付けなきゃいけない仕事をこなした。プレゼンは十時から。初めてではないが毎回緊張する。俺は落ち着くためにコーヒーを淹れた。
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