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第3章第138話

 十時から始まったプレゼンが終わったのは十五時。俺の企画は見事採用された。昼抜き、しかもド緊張した中で良く通ったと思う。緊張から解放された俺のお腹はグーと鳴った。一度オフィスに戻ると要さんが近寄って来た。 「どうだった?」 「上手く行きました」  俺がホッとした表情で言うと要さんはニコッと微笑んで俺の肩を叩いた。 「やったな、これから忙しくなるぞ」 「そうですね、でもとりあえずお腹空きました」 「飯食って来い」 「はい」  忙しくなる……朝陽に会いに行ける時間が減るだろうか……。俺は持参した弁当を持って屋上へ上がった。企画が動き出す前に一条さんに連絡しなければいけない。 「とりあえず食べるのが先だな」  俺は独り言を言って、持参した弁当を広げると、誰もいない屋上で一人遅めの昼食をとった。食べ終わったのはほどなくして。空の弁当箱を包み鞄の中へ。時刻を見れば十五時半少し回った頃。一条さんは電話に出るだろうか?俺は少し考えた後、電話をかける。何度目かのコールの後電話は繋がった。 「一条さんですか?上条です。今お時間大丈夫でしょうか?」 「ああ問題ない」  低いトーンの声。連絡を入れるのは久しぶりだった。 「朝陽の事なんですけど……一条さんに会いたいと言っています」  俺が躊躇わず言葉にして伝えると、一条さんは黙った。どうしたのだろうか? 「あの一条さん? 聞こえています?」  俺が確認を取ると暫くの沈黙が続きもう一度確認をとろうした矢先、低いトーンの声が聞こえた。 「私があの子に会っていいのだろうか?」  言葉が意味する事。二人の時間はあの日のまま止まっている。躊躇するのは仕方がない。きっと朝陽もそうなんだろう。 「朝陽が望んでいる事です」  俺は静かに答えると、一条さんは頷いた。取り合えずいつ会うかは後日と言う事で話は決着し電話を切る。そろそろ仕事に戻らないと。俺は鞄片手にオフィスに戻った。その日の仕事を終えたのは定時を少し回った頃。俺は急いで朝陽の待つ病院へと向かった。  病室へと向かうと珍しく朝陽の姿があった。 「朝陽昨日は来れなくてごめんな」 「ううん、大丈夫。仕事平気?」  俺がプレゼンの話をすると朝陽は穏やかに笑ってお疲れさまと言ってくれた。 「朝陽、一条さんの事だけど……」  俺が話しを切り出すと朝陽は静かに頷いた。連絡を取った事を伝えると朝陽は静かに口を開く。 「僕なら大丈夫、覚悟は出来ているから」  そう言って朝陽は窓の外を眺めた。外は既に日が傾き薄暗い。朝陽はどんな思いで一条さんに会うつもりなのか。何を話そうとしているのか。俺には何も言ってくれないから少し心配だ。あの日あの時、朝陽は二度と顔を見たくないと一条さんを追い出した。二年の空白で一条さんは変わったけれど、朝陽にとってはあの日のまま。でも朝陽の表情はとても穏やかだった。 「蒼空も一条さんも仕事忙しいでしょ? 僕ならいつでもいいから」  朝陽はそう言ってニッコリと微笑んだ。俺は朝陽の傍らに座り髪を撫でる。 「わかった。週末にでも調整してみるよ」  俺はそう返事をして朝陽を抱きしめた。腕の中の朝陽はとても落ち着いている。本当に大丈夫だろうか? 少しだけ不安が俺の中に残ったがギュッと抱きしめると朝陽は俺の腕に納まった。

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