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第3章第106話
散々キスしてようやく我に返り、
腕の中の朝陽は汗で冷えて僅かに震えている。
「病室に戻ろうか」
朝陽は小さく頷くと、よろよろと立ち上がる。
俺は細い身体を支えながら病室へと戻った。
「寒い?」
リハビリで汗だくになった身体を丁寧に拭き、
着替えさせると、朝陽をベッドへと寝かせ
訊いてみる。朝陽は頭を
横に振り有難うと呟いた。
「何か欲しいものは? 水飲む?」
「蒼空さっきから訊いてばかり」
そう言って朝陽はクスクスと笑う。
それを見て俺も笑みが零れた。
ああこんな風に何気なく笑うのはいつ振りか?
それから暫く他愛もない話をした。
時間がいくらあっても足りない。
もっとくだらない話を朝陽としたい。
そう思っても面会時間はもう終わる。
「そろそろ帰らないとでしょ?」
完全看護じゃなきゃ側にいるのに……。
俺は後ろ髪引かれる思いで重い腰を上げ、
横になっている朝陽の
柔らかな髪を一撫でした。
「また明日来る」
「無理しなくていいからね?」
何言って……。
「無理なんかしてないよ。
俺が会いたいから来るんだ」
朝陽の言葉に深い意味はなく、
ただ俺を心配しての
事だと分かってはいるが、
来なくても平気だと
言われたような気がして少し胸が痛い。
正直この二年で思い知らされた。
出会った頃は俺がいなきゃ
朝陽は生きていけない。
そう思い込んでいたのは間違いで、
側にいないと駄目だって事。
「蒼空?」
「俺は大丈夫、明日もその次も来るから」
朝陽は少しだけ間を開けて返事をする。
でもその顔は優しい笑顔だった。
俺は朝陽に軽くキスをして、目を閉じたのを
確認すると静かに病室を後にした。
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