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第1章第16話
僕が泣いたのは
多分父の死後一度もない。
葬儀の時ですら
声を出しては泣かなかったのに。
僕の涙は1時間経ってようやく止まり、
その間上条さんは
ずっと僕に寄り添ってくれた。
「……ごめ、んなさい」
声が僅かに震える。
顔が見れない。
こんなみっともない姿……。
だけど────、
「……いいさ、そんな時もある」
「…………」
てっきり理由を訊かれるかと思ったのに
上条さんは優しく微笑んだだけ
「ほら、コンタクトしてんだろ?」
「え……」
「洗濯物するんでポケット見たんだわ、
痛くなるから外して顔洗ってこい」
僕は躊躇いがちにケースを受け取り
洗面所へ行く。
鏡に映る顔は最悪だった。
また零れそうな涙を抑え
両目に入るコンタクトを外し
顔を水で洗った。
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