25 / 140

第1章第25話

目の前の男性は40過ぎだろうか? きちんとセットされた黒髪に 数本白髪が交じる。 紳士的に見えるのは 僕が見ても高そうだと分かる スーツを着ているから。 それと、全く興味が無い僕でも 高級車だと分かる黒塗りの車が 邪魔にならない程度に 自宅の前に停車している。 「……どなたですか?」 「あ……そうだった」 そう一言口にすると 男性は胸ポケットから 名刺を差し出し俺に手渡した。 僕は軽く頭を下げ 名刺に目を通すと 会社名と肩書きであろう 代表取締役と書いてあり 名前は…… 「一条誠(いちじょうまこと)です」 そう言って僕に深々と頭を下げた。 社長……父の知り合いだろうか? 「あの……」 僕が言葉を選んでいると 一条と名乗る男性が口を開く。 「話をする前にお線香を……」 やはり……この人は 父が亡くなったのを 知っているようだ。 僕は少し迷いながらも 「……どうぞ散らかってますけど」 断る事も出来たのだろうが…… 何となくそのまま帰す気にはなれず 僕は家の鍵を出し、男性を招き入れた。 この選択が間違いだったのかは この時の僕は知りもせずに。

ともだちにシェアしよう!