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第1章第28話
僕の顔が少し歪んだ。
泣きたい?違う……。
「お母さんだけを責めないで欲しい……」
「…………」
「私にも非がある……
悪いのは彼女だけじゃない」
僕はぐっと込み上げる感情を
押し殺し、口を開いた。
「父は……どうしたんです?」
「……子供に罪はないからと
彼女を責める事はしなかったと
私は訊いている」
「……離婚は?なぜ?」
「彼……君のお父さんが
するつもりはないと言ったそうだ」
僕はその言葉に顔を上げた。
父は何故そうしたのか?
どうして…………。
「彼は苦しんでいたよ……、
どうやって君やお母さんと
向き合うべきか……
そう思う内に仕事に追われるように
なっていったそうだ」
「…………」
「5年が過ぎた頃、
私は彼に1度だけ会う事を許された……
その時、彼はこう言った!
それでも俺は2人を愛したいと」
一条さんの言葉に
僕の目からは涙が零れた。
父がどんな思いで10年間を
過ごしていたのか……。
どう最後を迎えたのか……。
それを思うだけで、僕の心臓は
潰れてしまいそうだった……。
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