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第1章第29話

突然泣き出した僕を 一条さんは宥めるように ふわりと優しく髪を撫でた。 「……朝陽君」 初めて名前を呼ばれ 僕はビクンと反応する。 「朝陽……朝日のように キラキラした人生を 送って欲しいから……」 「……っ」 「彼が願いを込めて 付けたくれた名前だよね……」 少し考え深かげ……だけど、 どこか悲しげな表情……。 「母さん……が許せない」 ぐっと拳を握りしめ 僕は絞り出すように言葉にした。 「それは違うよ」 僕の言葉を一条さんは はっきりと否定した。 何が違うのか? 父を裏切ったのは 母じゃないか……。 そう噛み付きたい思いを 必死に堪え僕は無言のまま 顔を上げた。

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