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第1章第30話

一条さんはふと悲しげな 顔を浮かべ静かに語り始めた。 「彼女は……やり直そうと 努力していた、自分の犯した 過ちを後悔していたんだよ」 僕はそれが信じられなかった。 父が亡くなってからの母を 見てきたから……。それでも 一条さんは続けた。 「あの日……お父さんが 事故を起こした日…… 彼女は彼にメールをしたんだ」 「メール?」 「そう……今日は ご馳走を作るから 早く帰って来て……と」 「…………!」 僕は本当に驚いた……。 そして分かった。 あの日何故父が帰宅を 急いだのか……。 何故事故を起こしたのか……。 「彼女が初めて彼に送ったんだ……だけど……」 一条さんの声は苦しげで 目からは薄らと光るものが見えた……。 僕は……ただ黙ったまま……。 ううん、言葉が見つからなかっただけ。 ただその先の話を 待つしか僕には出来なかった。

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