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第1章第32話

僕は拳をギュッと握りしめ 一条さんを睨み口火を切った。 「弱いなら何をしても 許されるんですか!」 吐き捨てるように だがはっきりと怒りを込めて。 「……朝陽君」 「あの人が自分を責めたか 僕は知らない!でも僕には貴方の 言っている事が どうしても理解出来ない! 僕は…………貴方が知っている 母を知らないっ!」 怒りをどこにぶつけていいのか…… 堪らず一条さんに怒りを吐き出す。 「……そうだね、いきなり 分かって欲しいなんて…… 都合が良すぎるね……」 取り乱す僕を見ても 一条さんの静かな物腰は変わらない。 僕の頭は何をどう 整理すればいいか 全く分からないのに……。 怒りに任せて立ち上がった 僕の身体から力が抜けていき ソファに崩れ落ちると両手で顔を覆った。 僕は怒りと混乱で 僅かに身体が震える……。 「……朝陽君……」 まだ何かを言いたげな一条さんを 僕が拒否!それを察したのか 「分かった……今日は帰るよ……」 一条さんはそう言って 立ち上がりポケットから 何かを取り出す。 「……携帯持っていないと訊いたから…… これを使って……私の番号は入れてある」 僕の前に真新しいスマホを差し出すと 小さくすまない……そう言って 一条さんは家を出て行った。 追いかけないと…… 頭では分かっているのに 身体が云う事を利いてくれない。 僕はその場から動けず 車の音が遠くへ走り去るのを 気配で感じその場で泣き崩れた。

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