36 / 140
第1章第35話
朝陽side
散々泣きはらしようやく落ち着いて
時計に目をやれば、バイトの時間は
とっくに過ぎている……。
「……首かな……」
小さな声でポツリ……。
誰もいない空間に
吐き出す言葉がやけに虚しい……。
やっと見つけた仕事だったのに
連絡もしなかった……。
それでもバイトをする気には
到底なれない。
僕は渡されたスマホを手に
家を出た……。宛などない。
頭の中はグチャグチャ……。
ただ……誰かに触れたい。
抑えられない衝動に
僕の視線は相手を探す。
だけど────ふと脚を止める。
僕の中で今まで感じた事のない
虚しさが心を覆い尽くす……。
────だめだ……。
誰か────。
そう思っても、真新しいスマホに
連絡先など入ってはいない。
僕の心は知りたくない
事実に潰されてしまいそうで
その場に座り込んだ。
「誰か……誰か……」
何かに導かれるように
ポケットのメモを思い出す。
僕は震える手で取り出すと
涙が溢れた……。
つい昨日の事なのに……遠い記憶のよう。
僕に向けられた笑顔だけが
浮かんでは消える。
散々迷った挙句
僕は震える手で彼の
番号を入力し
発信ボタンを押していた。
ともだちにシェアしよう!