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キスする理由(都古×葵)
テスト前になるといつもこうだ。アオがいっぱい教科書を積んで、俺に勉強を教えてくれる。それはいい。それはいいんだけど。
「アオ、わかんない」
「んーとね、これはさっきやったやつとおんなじ解き方だよ?」
そう言われても、さっきは分かったフリしたけど本当は分かってないからこの問題だって分かるわけがない。だから数学はいやだって言ったのに。
「もう、やめる」
「うん、じゃあ次は世界史にいこっ」
「勉強、やだ……お昼寝、しよ?」
「だーめっ。補習になったら寂しいでしょ?だからいまがんばろうね」
「お昼寝」
「だめったら」
ぎゅーってアオの腰に抱きついておねだりしてもアオは全然許してくれない。こういうときのアオは俺がいくら甘えたってだめって言うんだ。
「じゃあとりあえず範囲の分の年表覚えよっか」
アオがはいって差し出してくれたのは、俺のために作ってくれたまとめのノート。最初のページに年号と起こった出来事、分かりやすく書いてくれてる。俺のために、ってとこがすごくすごく嬉しいけど、でもやっぱり勉強は嫌いだ。こんないっぱい覚えられるわけない。
「ねむい」
見てるだけで眠くなる。ただでさえ今日はいい天気で、アオと窓辺で昼寝できたらいいのにって思うのに。段々うとうとしてきた俺に、アオも呆れたのか自分の勉強を始めだしちゃった。しょうがない、か。
……でも、それはそれで寂しい。アオの膝の上にごろんと寝転がって腰に巻きついてみても、ペシッて頭叩かれただけ。それ以上何もかまってくれない。
「アオ、さびしい」
「じゃあお勉強しよ?」
「それはやだ」
「じゃあ知らない」
「アオ、アオ、相手して」
「……わがまま」
俺が精一杯甘えてみても、勉強に集中してるアオには効かない。ツンって鼻先突かれておわり。
「今日がんばったらご褒美あげようと思ったのに」
でもアオのそんな言葉が聞こえたら、拗ねようと思った俺だって顔を上げてしまう。
「ご褒美?」
「うん、今日はみゃーちゃんの好きな」
「好きな、ことしていいの?アオに?」
「え、ちがくて、みゃーちゃんが好きなもの」
「いっぱい、させてくれるの?アオに?」
「ちがう、ちゃんと最後まで聞いてって」
「じゃあ俺、がんばる。勉強、する」
ご褒美付きなら、俄然頑張れる気がする。なんでもっと早く言ってくれなかったんだろう。知ってたら早く終わらせて早くご褒美貰おうと思うのに。
……でも、アオから勉強終了の許しが出て期待した俺に、アオはひどいこと言った。
「みゃーちゃん、いーっぱい食べていいよ」
アオが何を食べていいか、なんてもちろんアオ自身のことじゃない。それだったらとっくに頂きますして食べてる。じゃあ何かって?俺の大好きな料理、夕飯に作ってくれたやつだ。
「……アオ、約束と、違う」
「ちがくないよっ。ちゃんとみゃーちゃんの好きなもの作ってあげるって言ったもん。みゃーちゃんが最後まで聞かなかったんだよ」
そう意地悪いうアオに、ぎゅっと抱きついて今日最後のおねだり。
「アオ、じゃあ……キス、させて。ご褒美」
「だめ、ご褒美これだもん」
可愛い顔して断るアオに、俺だって負けてらんない。
「ほしい、絶対ほしい。させて、させてくんなきゃ、やだ」
最後に耳元でもう一回、キスさせて、って低くねだれば、アオは真っ赤な顔して俺のこと見上げた。
「…………わがまま」
そしてちょっと恨めしそうに言ってから、ぎゅっと堅く目を瞑って俺からのキスを受け入れてくれた。
俺がアオにキスする理由。
ご褒美、だから。ご主人様はペットにご褒美、あげるものでしょ?
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