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第8回人気投票お礼(京介×葵)2

「だから、入ってくんなって」 扉を開けてきた人物の顔も見ずに告げれば、途端にすすり泣きが聞こえてきた。本当に泣き虫で困った幼馴染だ。結局言いつけを守らずに京介の近くまで寄ってきてしまう。 「伝染るぞ、マジで」 「でも、京ちゃんいつも一緒に居てくれるから」 「俺とお前じゃ体の出来がちげーの」 不安そうにベッドサイドにしゃがみこむ葵の頬を叱るように抓めば、拒絶するように首を横に振ってくる。確かに葵が風邪を引いた時はいつも傍に居てやっているが、それは伝染らないという確信があるからだ。外部からの影響で発熱することもあるが、葵が体調を崩す理由は精神的なもののほうが多い。京介が付き添ってやっても問題はないのだ。 「学校どうする?行けるか?」 「……行けない、京ちゃん居ないと行けない」 だろうな、と心の中で返事をする。答えが分かっていて聞いたのは意地悪かもしれない。 中等部に上がってもうすぐ半年が経つが、葵は未だにクラスに馴染めていない。 全寮制が始まる中等部からは外部からの編入生が多く入ってくる。初等部からの進学生と編入生とでは大きな隔たりが出てしまうが、学園に慣れているはずの葵よりも編入生のほうがもうすっかり学園生活を満喫して見える。 そもそも、全寮制であるはずなのに寮生活をまともに送れずに家からこうして通っているだけで問題だ。一人で登校することを想像してまた泣き出す葵にどうしたものかと困る気持ちはあれど、葵の中で自分の存在がどれほど大きいかを実感出来て堪らない。 だが、今日はもう一人、葵を甘えさせながら上手にコントロール出来る人物が居るのを忘れていた。 「葵ちゃん、おはよう」 「……遥さん!」 京介の恐れる通り、葵は涼し気な顔をして部屋に入ってきた遥の元へすぐに駆け出し、そして抱きついてしまう。まるで久しぶりに大好きな飼い主に会えた犬のようだと、悪態をつきたくなる。あるはずのない尻尾まで見えそうだ。 「葵ちゃん、支度は?そろそろ着替えないと遅刻しちゃうよ」 「あ、今日は……お休み、する」 「どうして?京介が休むから?」 遥の口調はその顔にぴったりの優しいものだが、葵を説き伏せる強さが込められている。葵はジッと見つめてくる遥の視線を避けるように俯いてしまった。どうして遥が西名家に泊まったのか。それは寮に泊まらざるを得なかった冬耶の代わりに、葵の登下校に付き添ってやるために他ならない。 でもそれを駆け引きのネタにしないところは遥の優しさであり、上手さでもある。京介だって伝染る危険性さえなければ葵をこの部屋に引き止めておきたいが、それは無理な話だ。二人のやりとりをベッドから見守るしかない。

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