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第8回人気投票お礼(冬耶×葵)4
「お兄ちゃんに、会いたくなって、来ちゃった」
ちょっとの距離でも息を上がらせている葵は少しだけ頬をピンクに上気させて、冬耶を見上げてくる。
「うん、お兄ちゃんもあーちゃんに会いたくて、ずっとあーちゃんのことばっか考えてた。……まぁそれはいつものことなんだけど」
冬耶が付け加えた正直な告白に、葵の表情がふっと和らぐ。こんな仕草さえ可愛くて仕方ない。許されるのなら、今すぐにでも抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまいたい。
葵もきっとそれを求めているのだろう。両手を広げ、そして冬耶をジッと見上げてきてこう言った。
「我慢するの、今日一日じゃなくて……半日、でもいい?だからもう、今日は終わりでいい?」
「あーちゃんが決めていいよ。お兄ちゃんはそれに合わせるから」
言葉は突き放すようなものかもしれないが、冬耶はちゃんと葵に身長に合わせて屈んでみせる。すぐに抱きつけるための配慮だ。
「じゃあ今日は終わり」
「うん、そうしよう」
冬耶が了承の頷きを返すなり、ぽすんと小さな体が飛び込んできた。冬耶の首に回ってきた手は音が鳴るくらい強くしがみついてくる。だから冬耶も負けじと葵の体をきつく抱き締め返した。
「あーちゃん、チューしていい?」
尋ねれば葵がこくりと頷く振動が肩口から伝わってくる。だから冬耶は隙間なく抱き合っていた状態を少しだけ緩め、葵と正面から向き合った。
甘えん坊を卒業する前に、泣き虫を卒業しないといけないかもしれない。この短い間ですっかり目元を濡らしている弟の姿を見て、冬耶は思わずそう感じてしまう。
でもいつまでもこうして手の掛かる弟で居て欲しい。そうも思うのだ。
「大好き、お兄ちゃん」
柔らかな頬に口付ければ冬耶の感情を煽るような告白がもたらされる。言葉だけじゃない。葵からもお返しとばかりに冬耶の頬に短いキスが送られたのだから、これで我慢しろという方がおかしい。
「お兄ちゃんのほうがあーちゃんのこと大好きだよ」
思い知らせるように頬だけじゃなく、額にもこめかみにも耳にも鼻先にも、とにかく唇以外の全てに口付けを落としてめいっぱいの愛を伝えていく。
いつか葵に好きな人が出来たら。そうしたらもうこんな風に戯れのキスを贈らせてもらえない。抱き締めるのも、一緒のベッドに入るのも、ごく自然に卒業出来るだろう。
寂しいけれど、その時がきたらきちんと身を引いてあげるから。だからそれまでは無理に止めるなんて言わないで欲しい。
「なぁ、あーちゃん。とりあえずお兄ちゃん卒業は来年まで先延ばしにしない?」
葵は冬耶の抱くもう一つの愛情をまだ気付いていない。そもそも葵から求めてくれない限りはそれを気付かせるつもりもない。だからせめて、”お兄ちゃん”だけでも傍に居させてもらえるよう、そんな提案をしてみた。
「そしたら今日一緒に寝られる?」
「うん、おやすみのギュウも出来るし、おはようのチューも出来る」
「じゃあ、来年また考える」
自分で宣言したというのに、葵はあっさり延長の申し出を受け入れた。
葵を自立させたがる遥には叱られるだろうし、京介にも呆れられるだろう。それでもやはり自分は葵をただただ綿菓子のように優しく包んで甘やかす存在で居てあげたい。
「俺はダメなお兄ちゃんかな?」
不安になって問えば、葵は自信満々に言い切ってくれる。
「どうして?世界一のお兄ちゃんだよ」
その笑顔が何より可愛くて、自分の選択はきっと間違っていない、そう思えたのだった。
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