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翌朝(聖&爽×葵)3

「もしかして寂しいですか?」 「だって、今日はもう少し一緒に居られると思ったから」 恋人になってしばらくはこうして本音を吐露することは出来なかった。けれど我儘な双子につられるように、葵も少しだけ素直に振る舞えるようになってきた。二人がそれを嫌がるどころか手放しに喜んでくれるのだからきっとこの選択は正しいものなのだろう。 現に葵が咎めるような言葉を口にしても、聖は嬉しそうに目を薄めるだけ。 「それならもう一泊してください。撮影早く終わらせますから。ね?」 「……でも」 「葵さんに”おかえり”って言ってほしいです」 こんな台詞を言われたら抗えない。真っ直ぐに見つめる聖に応えるように頷けば、ぎゅっときつく抱き竦められた。余裕があるようで時折こうして無邪気な後輩の顔を見せてくる聖にはいつも振り回されている気がする。でもその感覚は嫌いではない。むしろそういう所も好きなのだろう。 気持ちを伝えるように葵からもキスを贈りたくなったが、テーブルに置いてあった聖の携帯が鳴り響いたことで叶わなかった。 「あーあ、タイミング悪い。マネージャー着いたって。帰ってきたらまた続きして下さいね」 葵が何をしようとしたか予測がついていたらしい。葵の唇をスッと撫でて立ち上がった聖は慌ただしく出掛ける支度を整え始めた。 ウォークインクローゼットに引っ込んだ聖が次に姿を現した時にはもうすっかり外行きの姿に変わっていた。丈の長いカーディガンを羽織り、ハットを被った聖は仕上げのように最後にサングラスを装着すると玄関へと向かってしまう。 葵が慌てて後を追うともう聖はスニーカーすら履き終えていた。 「いってきます、葵さん」 「いってらっしゃい、頑張ってね」 仕事のスイッチが入った聖は、葵の見送りを受けると満足そうに飛び出していった。 静かになった部屋に一人残るのは寂しいが、救いなのはベッドにもう一人の恋人が眠っていること。葵はソファの上に散らばった服を手早く片付けると、足早にベッドに戻った。 出た時と同じように、爽はベッドの中で丸くなっている。唯一違うのはその瞳がしっかりと葵を捉えていること。 けれど起き上がる気配はなく、葵を手招いて呼び寄せてくる。その誘い通りに隣へと潜り込もうとすると爽がそっと腕を伸ばしてきた。枕代わりにしろという意味なのはもう学習済みだ。遠慮せずに頭を預けると、並んで眠るよりもグッと距離が近づく。 「爽くん、知ってたでしょ」 「何をっすか?」 「聖くんが朝から仕事だってこと」 常に互いのスケジュールを共有している彼等のことだ。口裏を合わせて葵を招いたのは明らか。指摘すると案の定爽は悪戯がバレた子供のように気まずそうな笑みを浮かべてきた。

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