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翌朝(忍×葵)3

「あッ……ちょ、忍さん?」 ガウンの隙間からするすると彼の手が滑り込んできた感触に葵の声が思わず上擦った。太腿からその先へ。迷う事なく登ってくる手を慌てて掴めば、その場で彼の手は悪戯を始めてくる。 「お前が引き止めたんだ。それなりの代償は覚悟の上だよな?」 内腿の柔らかな皮膚を突く忍はもうすっかり淫靡な空気を纏い始めている。高校時代から年不相応な色気があった忍は今はもう視線だけでも葵を震わせられるくらいに進化してしまった。 昨夜二人で食事をしたレストランでも、周囲から忍へと熱っぽい視線がいくつも投げられていた。以前はそうした周りの様子に気付く余裕も無かったが、最近やけに気になってしまうのだ。葵が昨日珍しくアルコールを口にしたくなったのも、自らの胸に芽生えたチクチクとした感情を誤魔化したかったからかもしれない。 「俺が葵以外に目移りしたことなんてないだろう?」 忍の誘いを受け入れるように身を凭れると、彼は低い声でそうも囁いてきた。きっと昨日葵が打ち明けた本音の中に、育ちかけていた不安もあったのだろう。 「……僕、なんて言っちゃいました?」 忍の気持ちを疑っているわけでは決してない。彼が最大限葵を愛してくれていることは身を持って知っている。だから葵の感じる不安が間違って忍に伝わってしまっていたらすぐに訂正しなくては、そう思った。 「あんなに熱烈な告白は初めてかもしれないな」 忍は相変わらず葵の脚に触れながらも答えをはぐらかしてくる。自分が何を言ったのかますます不安が増してくる。 忍が答えを教えてくれたのは葵の体がベッドへと沈み、ガウンの紐が解かれた頃。 「ずっと愛してもらえるように頑張る、と。そう宣言してくれたよ」 確かに葵の本心だ。否定しようもない。でもこうして素面の状態で暴かれるとどう反応していいか困ってしまう。恥ずかしくて思わず顔を隠してしまうと、忍は更に追い討ちをかけてきた。 「……さて、どう頑張ってくれるんだろうな?」 開いた胸元に戯れのようなキスを落としながらも忍はそれ以上一切仕掛けてこない。どうやら葵が積極的に忍を求めるのを待っているらしい。 咎めるのは簡単だが自分の蒔いた種だ。昔からどうやってもこの先輩より上手に立とうなんて無謀なことも分かっている。 だから葵は観念して手始めに彼が身につける眼鏡に手を掛けた。キスする時に邪魔になるから。いつのまにか二人の中でこれが深い口付けの合図。 ゆっくりと重ねられた唇の感触に、葵はこの後の甘い時間を覚悟して静かに目を瞑った。

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