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翌朝(京介×葵)※未来編

いくら深い眠りについていたとしても、自分を抱き締める存在が離れれば否が応でも目が覚める。葵が慌てて瞼を開ければ、ちょうど恋人がベッドから降りようとしているところだった。 「……京ちゃん」 「ん?あぁ起きた?」 スウェットの端を掴んで引き止めると、彼は寂しがりな葵に呆れたような顔をしてみせた。 「朝飯作ってくるから。何がいい?大したもんは作れねぇけど」 「京ちゃんが作ってくれるの?」 「他に誰がやんだよ」 驚く葵に対して京介はごく当たり前のように言葉を返してきた。そこでようやく葵も寝ぼけた頭が冴えてくる。今日から始まる連休に向けて、両親は一足先に昨日から二人きりで旅行に出てしまっていたのだ。 葵と京介が高校を卒業したのを機に、子供たちがある程度手を離れたと認識したのか、両親は二人での時間を多く作るようになった。葵は家族の時間が少なくなったように感じて少し切ない気持ちにもなっているのだが、京介は好都合だと喜んでいる節がある。自ら朝食の支度を名乗り出た様子からしても、機嫌はかなり良いらしい。 「出来たら呼ぶ。それまで寝てろよ」 そう言って葵の頭をポンと撫でて出て行く京介の口元はやはりどこか楽しげだ。京介が上機嫌なのも、そして葵の体を気遣って出来るだけ長く寝かせようとするのも、理由は同じ。 葵は京介の言葉に甘えてもう一度布団にくるまりながら、ベッドサイドの棚に視線をやった。そこに乗せられているのは、カラフルなビニールのパッケージが詰まった真新しい箱。少し前の葵ならそれが何か見当もつかなかっただろうが、今は違う。 両親の不在に合わせて京介が買い揃えたのだと思うと、どうにも居た堪れない程恥ずかしい気持ちにさせられる。そして同時に、この量を使い切る気でいるのかもしれないと不安にもなってしまう。 幼馴染で家族。その関係にもう一つ、恋人という枠が加わってからの生活に葵はまだ慣れることが出来なかった。今までのように気軽に抱きつけば濃いキスを与えられるし、同じベッドで眠ろうとするとすぐにボタンを外される。”普通”に振る舞っていたら、いくら心臓があっても足りないぐらいドキドキさせられるのだ。 でも京介曰く、それでは全く満足できないらしい。両親や、兄までも不在だった昨夜はそのせいで随分早い時間からベッドへと引き込まれた。だから機嫌も良いし、葵にもとびきり優しい。 準備が出来たと言って迎えにやってきた京介はやはりしかめ面ではなく笑顔のまま。ベッドに収まって微睡む葵を叱るどころか、タオルケットごと運ぼうとさえしてくる。 「京ちゃん、着替え……」 「いいよ、俺以外居ないんだし」 タオルケットの下は、京介のTシャツを被っただけの姿。腰回りは隠れているとはいえ、さすがにはしたないと訴えたのだがそれすらも京介は嬉しそうに返してきた。 京介が葵を運んだ先はダイニングではなく、リビングのソファ。その前のローテーブルには、葵のためのパンケーキとりんごジュースが並ぶほか、京介用のコーヒーカップが並んでいる。 「コーヒーだけ?ご飯は?」 少食な葵の倍以上食べる彼がまだ自分の朝食を用意していないと知って、そのまま食事を始めるわけにはいかない。これから用意するつもりのわけでもなく、京介は葵を下ろしたソファに並んで座ってくるのだ。

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